一緒に、生きよう。
その約束、すごくすごく嬉しかったし、私の生きる支えでもあった。
でもね、でも、樹月……。
「……ごめんなさい。私の分も生きて。樹月」
「そんな……。そんなの、嫌だ……っ! 茨羅っ!」
なんて……。
なんてひどい、裏切り。
一緒に生きたいって願ったのは、私も同じだったはずなのに。
それなのに、今度は私がその路を歩めない。
ごめんなさい、ごめんなさい、樹月。
苦しめて、悲しませて……それでもまだあなたのことが好きだなんて。
本当に……ごめんね。
「……兄さん、今までずっと私を守っていてくれて、ありがとう。兄さんは私には過ぎた自慢の兄さんだよ」
「茨羅……っ、駄目だ、早くここを開けろ……っ!」
兄ならもしかしたらこの扉、斬り開けることができるんじゃないかとも思ったけど、鉄製みたいだしさすがに無理みたい。
開けられないことに、申し訳なくも安堵してしまった。
「だいすき、兄さん」
さっきは音にしなかったその言葉を、今度はしっかりと届けると。
それに応えるように、どん、と一回、ひときわ強く扉が叩かれた。
「頼む、茨羅っ。頼むからここを開けてくれ……っ!」
「…………」
……ごめんね。
ごめんね、兄さん。
ごめんね、樹月、澪ちゃん。
きっと睦月と千歳ちゃんも悲しませちゃうよね。
……本当に、ごめんなさい。
扉に両手と額をつけて目を閉じた。
想うことはたくさんあるけど、そのすべてを断ち切るように、扉から静かにゆっくりと体を離してゆく。
もう、揺るがない。
「深紅さん、兄を頼みます」
「……茨羅ちゃん」
深紅さんならきっと、兄を支えてくれるはず。
ともに過ごした時間は短かったけど、でも、深紅さんの優しさや暖かさは私もずっと感じていた。
……深紅さんが、どれだけ兄を大切に想ってくれているかだって、伝わっていたの。
だからこその願いを告げ、目の前の扉をしっかりと見据える。
涙は、出なかった。
「ごめんなさい、本当に、たくさんたくさんありがとう」
そして。
「……さようなら」
深く深く頭を下げて。
身を翻してそのまま駆け出す。
私の名を呼ぶ叫ぶような声が耳朶を打つけど。
もう、振り返らなかった。
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