「じゃ。茨羅と深紅と怜と俺の身が危ないから、本領発揮で何とかするぞ」


……兄さん、ごめんなさい。

もうどこから突っ込めばいいか、わからないよ……。











拾八 「柊」











みんなで顔を突き合わせるこの場所は、怜の家の居間。

その人数を目に、随分な大人数が集まったものだと、遠くで思う。

少しばかりこの場が狭く感じられる気がした。

……螢辺りが減れば少しは密度が減るだろうか。

まあ今はそんなことに時間を割いてやってる場合じゃねえな。

螢くらいいつでも斬ってやれるし。

とにかく。


「集めた情報はこれで全部か……」


もともと深紅が得ていた情報は、すぐに俺へと伝わっていた。

それをみんなにも伝えながら、後は怜と螢が得ていた情報をより詳細に聞くことにする。



まずはあの家の儀式について。



それは他人の痛みをひとりの女性の体に刺青として刻み、黄泉へと送るという内容のものらしい。

柊と呼ばれるその痛みは自分に近しい者を喪うことで生じる痛みのことを示し、それを刻まれる女性が刺青の巫女……みんなが出会ったあの刺青だらけの女性のようだ。



それから、あの巫女姿の少女たちが唄っていた唄。

あの唄は刺青の巫女に刻まれた柊を鎮めるための唄らしく。

秋人なる人物が著した本に、その読解と絵図とが資料として載せられていた。

その絵図には文章も添えられていて、その文章というのが……。



――生肌断チ 柊 刻ミテ 刺青木 穿チ 久遠ニ 鎮メテ 狭間ニ 眠ル



というものだった。

どうやら螢はその「刺青木を穿ち久遠に鎮めて狭間に眠る」の部分に注目したらしく。


「巫女にその刺青木を穿てばいいんじゃないか?」


なんてことを言い出しやがった。

おいおい、女性に対してよくそんな酷い仕打ちができるもんだな。

俺は螢に信じられないものを見るような視線を向け、そのまま彼の言葉に答えてやる。


「散るならひとりで散れよ。俺たちを巻き込むな」
「酷っ!?」


何か勝手に落ち込みだした螢のことは放置して、次に俺は怜が持ってきた文身の民話とかいう本を資料の中から取り出し、示す。

そしてその中の文身行者二という頁を開いて皆に見せた。


「柊を己の目に入れてしまうと、目は鏡となりすべての柊を返してしまう、ですか」


書かれていた文を要約した深紅の言葉。

それを耳に首を傾げる螢の傍らで、怜が思い出した様子で僅かに目を見開いた。


「刺青の巫女の目……確かに刺青が刻まれていたわ」
「……やっぱりな」


怜の言葉に確信を得ると、俺は螢から聞いた情報のひとつ、破戒についてを思い返す。

そしてそれをみんなにも伝え、続けた。


「……似てねえか?」


この本の話と、その破戒とかいう状況。

ただの偶然、なんてわけはねえだろ。


「つまり、巫女の目に刺青が刻まれたことですべての柊が返され、障気が溢れ出てしまった……ということですか?」
「ああ、たぶんそれで間違いねえだろ。それがあの屋敷での状況で……破戒だ」


深紅の言葉に頷きながらも、俺は眉根を寄せて腕を組む。

……それがわかったところで即解決、とはいかねえんだよな、当然ながら。


「そうなると、問題なのは巫女の目の方だな。いったい彼女に何があったのか……」


巫女の目に刻まれる柊は、巫女自身の想いらしい。

だからこそ巫女となる者は現世への未練を封じられる。

そんな彼女が抱いた柊とは、いったい……。


「あの、ね。兄さん……。私、あの屋敷で自分じゃない別のひとの想いを感じたんだけど……」


ふと。

今まで静かに話の行方を聞いていた茨羅が、言い出し難そうにおずおずと口を開いた。

少しばかり気後れして見えるのは、たぶんこんなに大勢のひとがいる場で発言することになったから、だろう。

これが八重たちなどの慣れた相手なら茨羅もそれほど緊張しないと思うが、人見知りする性分にあるのだから仕方ない。

というより可愛い可愛い俺の妹のことなのだからなんだって許されるに決まってる。

……いや、誰も何も言ってねえけど。







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