再会への路
「! 茨羅に……会った?」
朝、目覚めた怜が報せに来てくれたのは、俺の可愛い可愛い大事な妹である茨羅のことについてだった。
拾壱・黒 「再会への路」
……どうやら、茨羅は無事にこの時代に来ているらしい。
俺がここに飛べたんだから、誤差があってもこの二年の間だろうとは思っていたが、何にせよ同じ時にいてくれているなら良かった。
茨羅は深紅との合流はできなかったみたいだが、代わりにまさかの再会を果たしていることを怜に告げたらしい。
「……樹月、睦月、千歳……」
生きていて……いや、生まれ変わってくれていたのか……。
正直、茨羅の隣に樹月がいると思うと不快だが、今はそれ以上に三人がこの時代を再び生きてくれているという事実に喜びを感じる。
……会ったら、謝らねえとな。
謝るという行為は好きじゃねえが、それでも謝れることが嬉しくも思う。
謝ることすら、もうできないと思っていたからな。
……が、まずは。
「螢、斬る」
あいつ、俺の可愛い妹が傍にいること、黙ってやがったな。
今思えば、この間の電話で言い淀んでいたのはこのことだったんだろう。
螢ごときが俺に隠しごと……それも大事な大事な茨羅のことだってのに隠すだなんて、身の程を弁えさせてやる必要があるってものだ。
それはそれとして、とにかく今は早々に茨羅と再会して、この夢をどうにかしねえと。
茨羅まで巻き込まれてしまっている以上、のんびりしている時間はない。
……いや別に、今までものんびりしていたつもりはないが。
そんなことを考えていると、またも電話が鳴った。
「はい、黒澤です」
これで螢だったら丁度いいがある意味怖いな。
噂をすればってヤツか。
そんな想像をしながら受話器を取った怜の様子を伺っていると、何故かしばらく無言が続き……。
「勝手に出なさいっ!」
声を張り上げてそう言い捨てると、怜は荒々しく受話器を置いた。
どうやら俺の予想は外れ、電話の相手はまたあの女性の霊だったようだな。
怜は受話器を置いたままの体勢で小さく息を吐くと、ゆっくりと俺へと振り向き戸惑いがちにながらも緩く笑った。
「良くやった、怜」
「……ええ」
よしよし、俺が言った通りに言ってくれたな。
次は深紅に言ってもらうか。
……て、何してるんだろうな、俺。
苦笑を浮かべて頭を掻く俺の耳に、再び電話の音が鳴り響く。
その音を聞き、びくりと怜の体が強張ったのを見て、俺が代わりに受話器を取ることにした。
「はい、黒澤です」
…………。
………………。
おいこら、無言か。
遠くで、出してと叫ぶあの女性の声がしてはいるが、どうも前回と様子が違う。
不審に思う俺の耳に、ようやく小さく震えた声が届いた。
「あ……天倉、ですが……」
…………。
ほう。
天倉、ね。
なるほど、いいところにかけてきたな。
噂をすればってことわざも案外馬鹿にはできねえか。
なんてどこか遠く思いながら、俺は螢に聞こえるよう鼻を鳴らした。
「よお、螢。お前、俺の可愛い妹を預かってくれてるらしいじゃねえか」
「! な、何故それを……っ」
「俺に黙っていようなんて甘いんだよ」
狼狽えている様子の螢に、俺は小さく嘲るように息を吐いて続ける。
「螢、今からお前の家に行く。首を洗って待っていろ」
「わーっ! ちょ、弥生っ! 斬る気か!? 斬る気なんだろ!?」
「当然だな」
楽に死ねると思うなよ。
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