出番なし
「あー……これはアレだな」
足元にある穴……どうやら通路になっているらしいそれを見下ろし、俺は腕を組み息を吐く。
「俺、無理。通れねえ」
「……役立たず、ですか」
おいこら深紅。
溜息混じりに辛辣なこと言うんじゃねえよ。
六・黒 「出番なし」
今夜もまあよく飽きもせず俺たちを誘い込んでくれやがった眠りの家。
始まりは前回目覚める前に辿り着いた場所、刺青が刻まれた皮膚が祀られ、吊り牢のある悪趣味極まりないあの部屋。
氷室邸にしろこの屋敷にしろ、こんな内装にした奴の趣味が知れない。
たとえ怨霊の巣窟になっていなかろうと、明らかに招き入れちまうだろ、これ。
と、そんなことは今は置いておき、その部屋で俺たちは、俺たちをここまで誘ってきた巫女姿の少女に告げられた。
二人を助けて、と。
……助けても何も、その二人が誰かも知らねえんだがな。
とりあえずその言葉は放置して、俺は深紅とともに部屋の中を調べることにし、そうする内に近くにあった祭壇に窪みがあることに気が付いた。
なるほど、何か嵌め込めということか。
嵌め込むものは、どうやら鎮め石とかいうものらしく。
誘われているような感じはするが、他にあてもねえしな。
癪ではあるがそれを探しに行くか。
……そういうわけで。
座敷のある広間まで戻ってきたところ。
「これは間違いなく、来いってことだな」
「ええ、おそらく」
どこかから響いてきた子守唄のような唄声。
あからさまに怪しいその唄は、どうやらこの足元に開いている穴の奥から聴こえてきているようで……。
が、そうわかってもこれは少しばかり問題だな。
「じゃ、俺は俺で屋敷の中、うろうろしてるから」
きっぱりと告げれば、やはり深紅は不服そうに顔をしかめる。
まあそんなに睨まれても、通れねえもんは通れねえからな。
仕方ねえだろ。
「……わかりました。じゃあ、何かあったら弥生が責任をとってくれるということで」
「は?」
おいこら、何でそうなる。
てか責任てなんだ、責任て。
「行ってきますね」
「お、おいっ、深紅っ!」
……このっ……、言いたいことだけ言いやがって。
…………。
………………。
仕方ない、いつまでもこの穴を睨んでいたところで穴が広がるわけでも俺が縮むわけでもなし、とりあえず移動してみるか。
あ、俺、縮めたとしても縮みたくはねえな。
今の身長に不服があるわけじゃあねえが、だからこそ縮んだところでまったく嬉しくはねえし。
……って、これ夢なんだっけか。
だったらもう少しご都合主義に話が進めばいいのにな。
と、内心不満を覚えつつも、とりあえずどこに向かえばいいのやら……。
「……北だな、北」
ま、理由は大したことないが。
何となく、重要なものは北にある気がする。
……黒澤家とか。
「…………」
思い返すと駄目だな、気分が沈む。
自分で考えておいて忙しないな、俺。
とにかく、今はさっさと進むか。
……まあ、これが進むことになるかはどうかは不明だが。
何もしないでいると、深紅に怒られるだろうからな。
それに、へたに思考ばかりを巡らせるよりとりあえず動いていた方が余計なことまで考えずに済む。
というわけで。
「……行くか」
北に。
まあ、アレだ。
やっぱり俺の勘は冴えているってことだな。
大きな木を囲う形の回廊で、俺は深紅との合流を果たすことに成功した。
どうやら深紅はあの狭い通路の先で、鎮め石をひとつ手に入れてきたらしい。
あと、残り三つか。
[*前] [次#]
[目次]