二年
…………。
て、おい、これは……。
「深紅か怜、何か厄介事、抱えてねえか?」
「え?」
居間に戻ってすぐに感じた、背筋を這う寒気と違和感。
その正体を探れば、階段下に足が視えた。
――足、だけな。
それは特に害を成す様子もなく、すぐに消えたため放置したが、嫌な感じは拭いきれない。
「そういえば、最近変な夢をみます。よく覚えてはいないんですけど……」
そう答える深紅と、複雑そうな表情をうかべ黙り込む怜。
夢、か。
何か、どこかでそんな話を聞いたことがあるような……。
「そうか。何か変わったことがあれば言ってくれ。一応、この家の中のことからなら守ってやれると思うからな」
「……それって……」
俺の言葉に深紅が小さく呟くが、それ以上は続けなかった。
今は霊力を失っていようとも深紅には何の話だかすぐにわかったんだろう。
黙したとはいえ、どこか不安そうにも……うんざりしているようにも見える。
怜は怜で何か考え込んでいるんだか俯いたまま何も言わねえし。
二人とも何を訊いてくるでもねえし、とりあえずその話は一度置いておき、最初の目的通り自分の用件を告げることにするか。
もちろんそれは、茨羅のことについてに決まっている。
それを話せば、深紅も怜も出来る限りの協力をしてくれると告げ。
俺はそんな二人に礼を言うと、続けてずっと気になっていたことを口にしてみることにした。
「なあ、俺、いつ服着替えたっけ?」
問えばびくりと深紅の肩が跳ね、不思議に思いそちらへと目を向ければ、彼女は慌てて俺から視線を逸らした。
「そ、それは……っ、弥生が何故か血まみれだったから……っ! ……か、替えたのは服だけですよ!」
「…………」
えーっと……。
あまり深く訊かずにおくか、俺のために。
俺はそう、胸に誓った。
壱・黒・了
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