終わることなく
あれから。
俺はある程度金を稼げるようになるまで螢の家で厄介になることになり。
その間、かなり不本意ではあるが、茨羅のことは樹月に任せることに決まってしまった。
夜明け 「終わることなく」
茨羅の様子がおかしい、と。
樹月から連絡があったのは先日。
俺より先に樹月が気付いたってことが気に入らねえが、今はそれより……。
「茨羅っ」
「……兄、さん?」
立花家の茨羅が与えてもらったという部屋を訪れれば、彼女は部屋の中で多くの本に囲まれるようにして座り込んでいた。
どこか異様な空気を感じ取りながらも、ふと散乱気味に床に置かれた本の中で開かれたままのものに視線を落とす。
そこには……。
「……兄さん。私たちの生まれた村の名前って、何?」
どこか虚ろにすら思える視線を向けられ、俺は思わず息をのんでしまった。
……どうして。
どうして、茨羅が、それを……。
「……わたしの、せいで……」
ぽつりと呟かれた茨羅の言葉にはっとする。
まさか……いたのか、あの屋敷に。
あの村の、生き残りが。
「茨羅、違う。それは……」
――茨羅を、守ってくれ。
唐突に、幼い頃に告げられた両親からの願いが頭をよぎった。
それと同時に急速に心臓が早鐘を打ちだす。
嫌な汗が、背筋を伝った。
「兄さん……私……」
駄目だ、茨羅。
お前は……お前だけは絶対に幸せにならなければ……。
「わたし、水治村(みずちむら)に行く」
開かれたままの本には、山奥にある地図にも載っていない村の、都市伝説が記されていた。
その村の名は……。
――水治村。
夜明け・了
2008.10.08 始
2011.06.27 改
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