「そ、んな……」


俺と深紅が告げた結論に、みんなが息を飲む。

あの少女がずっと訴えていた「二人を助けて」の二人という言葉が示す人物は、きっと零華と要のことなのだろうと、今更わかった。

とにかく……。


「巫女の柊が何かはこれでわかったな」


想い人である要の死。

それが巫女の目に柊を刻み、破戒を起こしてしまった原因。

いや、誤ったら駄目だな。

そこに辿り着いた本当の原因は、元凶は……あの屋敷の在り方自体であり、要と零華を引き剥がしやがった奴なのだから。

本当に……心底吐き気がするな、あの屋敷も。

……とにかく。


「柊が何かわかったところでどうするか……」


時間も残されてねえことだし、今は自分たちのことを考えねえとな。

あの屋敷を形成してるのはおそらく零華の柊から発生した破戒で間違いないだろう。

その彼女を成仏させるためには、破戒……柊をどうにかすることは必須事項だと思われる、が。

要が生き返る、なんてできるはずもねえしなあ……。


「ねえ、見たくないのなら、目を閉じてあげるというのはどうかしら」


ああなるほど、零華の目を閉じる……か。


「まあ、目を開けたままでいるなら閉じてやりたいところだが……」


怜の提案にそう答えてはみるが、果たしてそれがすべての解決へと繋がってくれるかと考えると、正直心許ない。

まだ先程の螢の提案の方が可能性はありそうに思える、が。



おそらく、零華は既に巫女として穿たれた後だろう。



茨羅が視た映像は零華の見た光景に間違いないと思われ。

その時視えたという杭を打たれた手は、きっと零華自身の手だと俺は判断する。

そうなると、既に穿たれている者を再び杭で穿つ意味はない。

それには螢自身も気付いたらしく、今度は別の提案をしてきた。


「ある地図に、あの屋敷の奥に広大な海のような空間が描かれていたんだが……」


そう前置いてから、螢はあの鎮め唄の第三節が書いてある資料を開き、みんなに示す。


「その海がたぶん、涯、なんだ」


涯……著者である秋人なる人物によれば、それは彼の世と此の世との境を意味する場所だとのこと。

つまり。


「ならその海の向こうが彼岸ってことか?」
「たぶん」


たぶんたぶんって、お前な……。

螢が言うといまいち頼りにならねえ気もするが……。

あの屋敷に、他に黄泉へと通ずる場所もなさそうだし、まあ合ってるんだろうな……たぶん。

って、俺も遣っちまったじゃねえか。


「きっと、そこに巫女を渡せばいいんじゃないかと思うんだが……」




――ろうろう みわたり かのきしに しせい わたして なくが てあげ。



……なるほどな。

きっとやらたぶんやらはこの際置いておき。

秋人なる人物の追記には、その節が人身御供を意味するか刺青を背負って逝く巫女を労う唄かは不明と書かれてはいるが、どちらにせよ、彼の岸へと「送る」ことには違いないはず。


「……試してみるか」


他にできそうなこともないし、その価値はあるだろうな。

……まあ、螢の提案ってところが凄く不安ではあるが。

とにかく、俺がそう告げた直後、唐突に横手から軽い重みがかかり、驚いた俺は目を見開いてそちらを向く。


「……茨羅?」


声をかけるが、俺の肩に頭を預け目を閉じる彼女から返ってきた応えは小さな寝息だけ。

直後に、彼女の身体全体……顔にまで浮かび上がった刺青を目に、俺は息を飲んだ。

……まずいっ!

たぶん、今眠っている内に……すぐにでもすべてを解決しなければ、茨羅はもう戻ってくることができなくなる。


「茨羅っ!」


茨羅の異変に気付いたらしい樹月が、慌てて茨羅の元まで寄ってきた。

……俺はそれを邪魔することなく、静かに言葉を紡ぐ。


「……きっと、これが最後だ。絶対に全員で助かるぞ」


告げた言葉に、深紅も樹月も、怜も螢もみんなが頷く。

そんなみんなに頷き返し、それから俺は大事な妹の手を強く握った。

そしてゆっくりと目を閉じてゆく。



――必ず、助けるから。



その想いを抱いて。



ゆっくりと、意識を沈めていった。












拾八・了



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