生
「深紅。俺はお前を死なせたりなんかしねえぞ。絶対にな」
もう誰も。
失ったりなど、しない。
たとえ深紅自身が何と言おうとも、これ以上、この手から滑り落としたりなどしないから。
「……弥生……」
深紅は小さく俺の名を紡ぐと、ゆっくりと俺を仰ぎ見る。
その顔には、ともすれば見逃してしまいそうなほどに微かなものだったが、小さな微笑が確かに浮かべられていた。
「あなたは、いつでも変わらないんですね。……本当に、弥生らしい……」
「……褒めてんだろ?」
「ええ。そういうことにしておきます」
いつもの深紅の答え。
いつもの深紅の態度。
それに俺は内心で安堵して、小さく微笑み返した。
「弥生……私、やっぱり生きたいです」
「そうか」
生きたい。
……そうだよな、やっぱり自分で望まねえと。
「弥生がいてくれるから……私、生きますね」
……ん?
俺がいるから?
「えーと……?」
「……ごめんなさい、弥生……。私、眠くて……」
どういうことか理解できずにいる俺の目の前で、深紅の瞼が重そうにゆっくりと瞬かれる。
……眠い、か。
たぶん、次が正念場だな。
「心配するな、深紅。俺がついてる」
根拠はないが、大丈夫だろ、きっと。
俺はもう、何も奪わせたりなどしないから。
あんな夢如きに負けてやる道理はない。
絶対に生き残ってやるさ。
「……はい。あの……弥生」
「ん?」
……何だよ。
人の名前呼んでおいて、黙るな。
「……手を」
手?
「繋いでいてもらっても、いいですか?」
……不安、なんだろうな。
僅かに震えている深紅の頭に手をやり、軽く撫でながら俺はいつもと同じように明るく笑ってみせた。
「ああ。繋いでる。だから深紅……大丈夫だ」
「……はい」
なあ、真冬。
俺は、お前を置いてきたことを悔いたりなんかしてねえぞ。
……きっと、お前はそれを望んでなんかいねえと思っているから。
だから。
俺も深紅も、絶対に生き残ってやる。
拾伍・黒・了
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