終わらせてはくれない
……もしかして、私たちのために鍵を開けるのが遅くなってしまったと言っていたその理由って、奥に向かおうとする澪ちゃんをなんとか止めようとしていたから、だろうか。
「茨羅ちゃん、お願い。澪を助けて。私は、ずっと澪の傍にいるって……伝えて……」
「繭ちゃん……。わかった」
元より、澪ちゃんを助けたくて私は今ここにいるんだもの。
そんな思いで強く頷いて答えれば、繭ちゃんは少しだけ安心したように……けれどやっぱり寂しそうに小さく微笑んで、ふわりと宙に溶けるように姿を消した。
「茨羅ちゃん、澪がいた場所に、これが……」
繭ちゃんが姿を消した後、牢から出てきた螢さんが私に見せてくれたもの。
それは……。
「家紋風車……」
これまであるなんて……。
私は少し驚きながらも、すぐに首を振った。
――駄目……、今は戸惑っている場合じゃないんだ。
「……螢さん、これの解き方なら私がわかります。澪ちゃんを追いましょう」
もう、繰り返さない。
誰も……犠牲にさせたりなんかしないから。
そう強く誓って、仕掛けを素早く解いて扉の奥へと進んでゆく。
すると、目の前に伸びる細長い通路の先に、捜し求めていた澪ちゃんの後ろ姿を見付けることができた。
「澪っ!」
「澪ちゃんっ!」
螢さんと同時に澪ちゃんに呼びかけ、すぐに駆け出す。
けれど、澪ちゃんの足は驚くほど速くて……。
どうして……澪ちゃん、走っているようには見えないのに。
走っても走っても、距離がまったく縮まらない。
「ずっと、一緒だから」
やけに響くその声に、凄く強い焦燥感を感じた。
「澪ちゃん、駄目っ! その先に繭ちゃんはいないのっ!」
繭ちゃんは、ずっと澪ちゃんの傍にいる。
だから……、だから……っ!
「お姉ちゃん。ずっと、一緒だよね」
私たちの声も虚しく、澪ちゃんは廊下を抜けた先の部屋の奥の扉へと、ひとりで消えていってしまった。
私たちもすぐにその扉に飛び付き開けようとするけれど……。
「くっ……開かないっ」
悔しそうな螢さんの声。
目の前の扉は澪ちゃんだけを飲み込んで、しっかりと締め切られてしまったのだ。
押しても引いてもびくともしない。
「澪ちゃん……っ」
お願い……、お願いだから、その先へは行かないで……っ。
その先にあるのは、きっと……。
「螢さんっ! 別の道……ううん、別の方法を探しましょうっ! まだ大丈夫……絶対、まだ間に合うはずだから……」
「茨羅ちゃん……。そうだな、行こう」
大丈夫。
大丈夫、絶対。
絶対、救える。
だから……。
「急いでいるんですっ! 邪魔しないで下さいっ!」
現れた楔を、ありったけの力を込めて射影機で撮った。
消えていくその姿を見送る間も惜しみ、そのすぐ傍を通り抜け、私たちは来た道を駆け戻る。
待っていて、澪ちゃん。
絶対に、助けるから。
急いで走って、牢のあるあの場所まで戻ったところで、まるで見計らったかのように突然声をかけられた。
「茨羅ちゃん、こっち。お願い、澪を……」
「うん」
あの眠りの家という屋敷に繋がる扉。
そこの前で、繭ちゃんが呼ぶ。
私は急いでその扉に手をかけ……。
「螢さ……」
……え?
どういう、こと?
振り返った私の視界には、ついさっきまで一緒にいたはずの螢さんの姿が……なくなっていた。
七・紅・了
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