出番なし



「お、深紅。おかえり」
「おかえりじゃないですよ、弥生」


しばらく祭壇のある部屋で待って、少しして戻ってきた深紅と無事合流できたと思ったのだが……。



何故か、物凄く睨まれた。




「だから言ったじゃないですかっ! あの扉壊したこと、本気で怒ってましたよ」
「なんだ。部屋の主とでも出会ったのか?」
「ええ、もう心底鬱陶しいし、大変だったんですよっ」


……鬱陶しいって……。

まあ、一応無事だったみたいだから良かったが。

今下手に声をかけて逆鱗に触れるわけにはいかない。

そう判断した俺は、深紅が祭壇の仕掛けを解く間、黙ってそれを見ていることに専念した。


「……できましたよ」


終わりを告げる深紅のその声を合図にでもするかのように、辺りにあの子守唄が響き渡り。

鈍い音を立てて、天井にあった吊り牢が浮上していった。

……あれで、上からあの中に入れるようになったというわけか。


「とりあえず、あそこに行けばいいんですよね。きっと」
「だろうな」


まあ、こんな面倒な仕掛けを解かせておいてあそこが無関係だったりしたら、この屋敷、滅茶苦茶にしてやりたくなっちまう。

俺たちは一度頷き合うと、さっさとこの部屋から出ようとして……。



――ゾクリ。



背筋に、悪寒がはしった。


「……ちっ」


俺は舌打ちながら振り返り、そこに現れた女の霊を視認する。

それと同時……。




「いい加減にして下さいっ!」




――カシャンッ。



深紅の放った怒りの一撃が、見事に霊を捉えて消し去った。


「み、深紅……」
「今、機嫌が良くないんです。邪魔しないで欲しいですよね」


…………。


「……俺が悪かった」


俺が心からそう告げるとともに、意識が急速に浮上し始める。



……なるべく深紅を怒らせないようにしよう。



それが、今回俺が強く学んだことだった。















六・黒・了



[*前] [次#]
[目次]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -