出番なし
そう考えていたら、今度はここの東側からあの子守唄が聴こえてきたため。
とりあえずその唄を辿って向かった部屋で、もうひとつの鎮め石を見つけることができた。
「あとふたつだな」
そう言いながらも、俺はこの部屋の壁中に穿たれている人形の方が気になって仕方がない。
……この屋敷、悪趣味な部屋ばかりだな。
心底辟易するが、そんなことを言っていても部屋の内装が改善されるわけでもなし。
さっさと先に進むか。
「弥生、向こうの通路にも部屋があるみたいです。行ってみましょう」
……よくわかったな、深紅。
俺には全然見えねえよ。
……別に鳥目じゃねえんだけどな……。
まあとにかく、深紅に促されるままそちらに向かえば。
そこには確かに扉があった、が。
「深紅、下がってろ」
「弥生……まさか……」
その扉は歪な気配に押さえ込まれ、開かないようにされていた。
それを確認した俺は、扉の前に立ち静かに刀を引き抜いてゆく。
つまり。
役立たずの汚名を返上するわけだ。
俺は鋭く息を吐くと、手にしている刀を一閃させた。
扉なんてもの斬ったことはなかったが、案外斬れるもんだな。
夢の中だからって理由なら、このくらいのご都合主義じゃまったく満足できねえが。
すっぱりと叩き斬られた扉の奥を覗いてみれば、反対側にあった鎮め石の置かれていた部屋と同じ造りになっているようだった。
「……よし。調子良いな」
「怒られますよ」
深紅に呆れた様子で言われるが、正直向こうの都合にばっかり付き合う必要はねえと思う。
面倒事なんざ心底蹴り飛ばしてやりたい。
そんなことを思いつつも、とりあえず中を確認。
「お、やっぱりあったな」
三つ目の鎮め石。
それを見つけ、手に取る。
これで残りはひとつか。
「誰か来る前に急いで出ましょう。弥生のせいで逆上されたら迷惑です」
「……その場合、迷惑なのは逆上した奴の方だよな」
「そういうことにしますから、急いで下さい」
……納得いかねえ。
だいたい、ここは夢の中だろ。
勝手に他人引きずり込んでおいて、扉一つで文句言うような霊がいたら、俺が微塵に叩き斬ってやる。
……男に限るが。
とにかく深紅が急かすから先を急いで……。
通りかかった、やたらと染みのある回廊で、またも聴こえてきたあの唄声。
しかも……。
「今回も役立たず、ですか……」
「役立たずとか言うんじゃねえよ」
どうしてこんな狭っ苦しい通路を造ったのか。
どう考えても不便だろ、これ。
普通に生活する家の構造じゃあねえよな、どう考えても。
と、そんなことを考えるが、やはり何を言ったところでこの道が広がるわけではない。
俺は小さく溜息を吐くと、静かに深紅へと告げた。
「どうせこの先に最後の鎮め石があるんだろ。俺は一足先にあの祭壇のところまで戻ってるぞ」
「……わかりました」
深紅も溜息を吐いて返すが、こればかりはどうすることもできない。
詰まったら深紅じゃ引き上げられねえだろ。
まあまず入る時点で突っかかるとは思うが。
そんなわけで俺は再び深紅と別れると、あの祭壇がある部屋へと向かうことにした。
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