生きて……



あの後。



私は澪ちゃんと一緒に、一度山を降りて。



そこで彼女と別れた。



澪ちゃんには、捜してくれていたひとがいて。



澪ちゃんがそのひとと話をしている間に、私は再びひとりで山を登りはじめた。













夜明け 「生きて……」













明るく光を降らすこの場所は、ずっとあの村の暗闇の中にいた私にとって、まるで別世界のようにも思える。

その中を、私はひとり、ゆっくりと歩き続けていた。



わかって、いるの。



もう、皆神村へ行ける道は閉じてしまっているだろうし、再び開くこともないのだろうと。



このまま、ダム……とかいうものに、沈められてしまうのだろうということも。





わかって、いるけれど。





足が、村へと向かってしまう。





それじゃ駄目だって、頭のどこかで制止するけど。



でも、私には……。







ゆっくりゆっくり歩いて、しばらくそのまま歩き続けていたら、私は何かに躓いて転んでしまった。


「い……った……」


両手をついて、上体を起こす。

そして立ち上がろうとしたところで、気が付いた。


「……足、痛い……」


そうだよね、ずっと歩き通しだったんだから。

私、あんなに歩いたり走ったりしたこと、初めてだったし。



……痛くて、当然……だよね……。




「うん……痛い……」




視界が、徐々に滲んでいく。



涙が溢れてくるのは、きっと足が痛いせい。



痛いから、涙が出てきたんだ……。




「ぅ……っ」




笑わないと……。



笑わないと、駄目だよ……っ。



だって……約束、したんだから。



笑うって……、約束……。





でも……、だけど……っ。






「逢いたい……。逢いたいよ、樹月ぃ……っ」






逢いたくて、逢いたくて、逢いたくて……。





ねえ、私はやっぱり、あなたがいないと……。






「笑えないよぉ……っ」






座り込んだまま、私は泣き崩れる。



わかっている、これではいけないと。



それでも、溢れ出す想いが抑えきれなくて。



まるで涙を止める方法を忘れてしまったかのように、私はただ泣き続けた。









そのまま泣き続けていた私の背中に、突然ふわりと温もりが伝う。





「……え?」
「……ごめんね、茨羅」




驚く私に掛けられた、その声。



それは……。




「い……つ、き?」




嘘……、だって、そんな……、彼は……っ!



戸惑いながら振り返ったその先には……。





黒い髪に、黒い瞳。



服は見慣れた着物姿ではなくなっているけれど。



優しく微笑むその姿は……。



……本当に……。




「本当に、樹月、なの?」




信じたい……。



信じたいけど……、夢なんじゃないかって……。



だって、だって樹月はもう……。




「うん」




頷いて応えてもらっても、まだ不安で。



どうしても、目の前の光景が信じきれない。




「だ、だって……っ! 樹月は……っ!」







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