合流



「……うんっ。もう、行ける」


しばらく思い切り泣いた後。

とにかくまず私は、蔵の外まで出ることにした。



蔵から出て、一度だけ蔵を振り返る。

想うことはたくさんあるけど、でも今は、立ち止まっている場合じゃない。

そう自分に言い聞かせて、行く手に伸びる道の先を覆い尽くす、ただ深い暗闇を見つめた。


「待っててね、紗重。絶対、助けるから」


それが私に残された、私がやるべきこと。



――紗重を、助ける。



大丈夫、私にはもう、助けるということの意味がわかるから。



もう、目を逸らしたりはしないから。





私は暗闇の中、紗重の家である黒澤家を真っ直ぐに目指した。















拾四之路 「合流」















暗闇の中を駆けて、しばらくして目の前に見つけた後ろ姿。

闇の中にぼんやりと浮かぶあの姿は……。




「繭ちゃん……?」




暗くてよくわからないけど、たぶん間違いないと思う。



でも、どうして繭ちゃんがまだここにいるの?

澪ちゃんと一緒に、村の外へと逃げたはずじゃあ……。



そう思う私の視線の先で、私に気付いたのか、繭ちゃんがゆっくりと振り返った。



でも、振り返ったその姿は……。




「……紗重?」




紅い染みのついた白の着物を身に纏った、ひとりの少女。

見紛うことは、ない。

だって彼女は私の大切な、大事な友人だから。



でも、何で?

確かに繭ちゃんだと思ったのに、どうして紗重がそこにいるの?




「……茨羅」




戸惑う私の名を、小さく囁くように紗重が呼ぶ。

その声で我に返り、私は慌てて紗重に駆け寄ろうとした。

だけど……。


「来ないでッ!」


素早く上げられた拒絶の声に、思わず足を止める。

そして困惑する私に、紗重は小さく微笑みかけた。



――……哀しそうな、笑みで。




「茨羅、ごめんね。これだけは譲れないの。これだけは、邪魔しないで」
「どうして……。どうして、紗重っ!」


邪魔をしないでって……、紗重、あなたは……。


「私は、八重とひとつになりたい。ずっと、一緒にいたいの」
「そ、んな……。でも、でも紗重、あのひとは八重じゃ……」
「茨羅」


ない、と続くはずだった私の言葉を遮る紗重の声はどこまでも低く。



寒気が、した。




「さ、え?」
「茨羅、あなたは逃げて。もし、私の邪魔をするなら、私はあなたも……」






――殺さないと、いけなくなるから。






「あははっ。あははははははっ!」




きっぱりと告げ終えた紗重は、私に背を向けると、笑いながら去って行く。





どう、して……。





紗重にはもう、私の声が届くことは、ない……?




「そんな……」




どうして……どうしてなの、紗重。

どうしてそこまで……。

愕然とし立ち尽くす私は、しばらくその場から動くことができずにいた。

そんな私の耳に、少ししてひとつの足音が届いてくる。

その音により我に返った私は音のしてくる方へと反射的に振り向いた。

視線の先に広がる闇の奥から丸い明かりが届いてきて、それが徐々に大きくなってくる。

その明かりの向こうには、こちらへと駆けてくる澪ちゃんの姿があった。







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