桐生
ドウシテ、コロスノ?
――どうして、殺さないといけないの?
コロシタクナイ。
――殺して欲しくない。
ズット、イッショニ……。
――そんなの……そんなのって……。
七之路 「桐生」
「……茨羅ちゃん、大丈夫?」
心配そうに声をかけながら、澪ちゃんが私の顔を覗いてくる。
私のことを案じてくれる彼女を安心させられるように、私はできる限りの笑みを浮かべて頷いた。
「……うん。大丈夫。心配してくれて、ありがとう」
嘘。
本当は、全然大丈夫なんかじゃ、ない。
ドウシテコロスノドウシテコロスノドウシテコロスノ……。
――……殺したく、ない。
この家では、かつてあの儀式を行ったとされる双子の女の子のひとり、姉である茜ちゃんの想いが、痛いほどに伝わってきて。
……どうしても、重ねてしまう。
茜ちゃんの妹、薊ちゃんは、儀式をすればひとつになれるって喜んでいたみたいだけど……でも、怨霊となってさ迷う茜ちゃんの姿を見る限り、少なくとも幸せそうには見えなかった。
それもそのはず。
殺してしまうということは、死んでしまうということは……。
残された方が、苦痛と悲しみを背負うことに他ならないと、私は思うから。
「それじゃあ、仕掛け、解くね」
「うん」
小さな子どもほどの背丈はあるだろう、二体の人形が置かれているこの部屋。
私たちは、二体の内未完成だった人形の方に、屋敷内で拾い集めた両手と頭、そして瞳を入れて人形を完成させた。
後は、この仕掛けを解けば、立花家に繋がる通路が現れる……みたいなんだけど……。
「! 澪ちゃん!」
澪ちゃんが仕掛けを解いたその直後、あの二体の人形が突然不自然に歪み出し、動き出した。
驚いたのも束の間、私も澪ちゃんもすぐさま射影機を構え、臨戦態勢へと移る。
「どっちが人形っ?」
「向こうっ! あっちが茜ちゃんっ!」
二方向から迫ってくる、茜ちゃんと薊ちゃんの人形。
まったく同じような姿に見えるけど、両者にも違いはちゃんとある。
ここに辿り着くまでにも幾度か襲われその見分け方がわかった私は、澪ちゃんに茜ちゃんの方を教えると、迫ってくる薊ちゃんの人形へと射影機を向けた。
「澪ちゃん、茜ちゃんをお願い」
「わかった。任せて」
――カシャンッ
「きゃあぁああぁあっっ!」
二人で一緒に、それぞれを射影機で写し、それを何度か繰り返して。
茜ちゃんと薊ちゃんの人形が消えたことを確認してから、仕掛けを解いたことで現れた地下への梯子を降りていく。
「……この先が、立花家……」
地下に伸びる道の先を、持っていた灯りで澪ちゃんが照らしだす。
丸く照らされたその奥は、ただただ寒々しい岩肌を露出して暗闇と冷気を晒していた。
その様子を澪ちゃんの隣で見つめつつ私の脳裏をよぎるのは、楽しかったあの頃の思い出ばかりで……。
行きたくないと、ふと思ってしまった。
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