目的



「ごめんなさい……。付き合ってもらっちゃって……」


私の隣を歩きながら、小さく俯き謝る少女。

八重によく似た容姿と雰囲気を持つ彼女は、天倉澪ちゃんというらしい。

当たり前だけど、八重とは別人だ。

話を聞いてみたところ、彼女は双子の姉である繭ちゃんとこの村に迷い込み、いろいろあってはぐれてしまったとのこと。

繭ちゃんを追い、彼女が向かった家に入ろうとしたら、その家には鍵が掛かっていたらしく、他の入口がないかと樹月に尋ねに来たところで、私と出会ったようだ。

私も澪ちゃんも、まさか生きているひとに会えるなんて思っていなかったからとても驚いたけど、私は話を聞いてすぐに彼女の力になろうと思った。


「気にしないで。私もこの村で、しなくちゃいけないことがあるから」


樹月や、みんなを助けたい。

何が助けることになるのかも、どうすれば助けられるのかも、まだわからないけど、それでも。



……助けたいの。



とにかく私たちは、目的の家である立花家に繋がる家、桐生家へと向かうことにした。

















六之路 「目的」










私と樹月は澪ちゃんから彼女のことや、彼女がこの村で体験したことについてを聞かせてもらい。

出会ってすぐは私も彼女のことを八重かと思ってしまったけど、話を聞くとやっぱりそれはなくて。

樹月も、人違いだったと澪ちゃんに謝っていた。


「私、澪ちゃんと行くね」


話を聞き終えると私はすぐに樹月にそう告げる。

澪ちゃんが驚いた様子で目を見開いて私を見ていたけど、樹月にはわかっていたみたいで、小さく頷いてくれた。


「……澪ちゃんが見た女の子……。きっと、紗重だよね……。私、会わないと……」


会ってどうするかとかわからないけど……でも、会わないと。



そう思った。



そんな私に、樹月は少しだけ困ったように微笑む。


「茨羅ならきっと、そう言うと思った。だけど、約束して欲しい。君は必ず生きてくれると……」


兄に、樹月に、睦月に……みんなに望んでもらったこの命。



大丈夫。

そう簡単に、捨てたりしないよ。



私は樹月にゆっくりと頷いてみせた。


「樹月に、笑って逢えるようにしたいから」


樹月、私に笑っていて欲しいって言ってくれたから。

だからそう、笑っていないと。

私の言葉に、樹月は嬉しそうに微笑んでくれた。

樹月が私の笑顔を望んでくれたように、私も樹月には笑っていて欲しいとそう願う。


「あ、そうだ。私、樹月に訊いておきたいことがあるの」


そうだ、これは忘れずに絶対聞いておかないと。

そんな思いからの私の切り出しに、樹月は小さく首を傾げた。

不思議そうに続きを待つ樹月へと私が訊いておきたいこととは、さっき話していた時には出なかった話題。

それは……。


「ねえ、樹月。兄さんは? 兄さんは、どうしたの?」


この村で別れてしまった私の兄。

その兄が、もしもあのままここに残ってしまっていたら……。

不安を混ぜた瞳を樹月へと向ければ、樹月は真剣な眼差しをまっすぐに私へと向けながら、ゆっくりと……一言ずつしっかりと答えを紡いでくれた。







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