目的



「……弥生は、茨羅を逃がした後、僕たちの儀式を止めようとしてくれたんだけど……村人たちに捕まって……」




捕まっ、た……?




「そ、んな……」
「弥生はもともと客人だから……、きっと楔にしようとしたんだと思う」
「嫌っっ!」


嫌……っ、嫌だっっ!

そんなの、聞きたくない……っ!

兄さん、そんな……、だって、そんなのって……っ!


「茨羅、落ち着いて。弥生は楔にはなっていない」
「…………え?」
「弥生の能力、覚えてるよね?」


取り乱す私に、あくまで冷静に樹月が言い聞かせてくれる。

落ち着かせるようにゆっくりと、けれど言葉の強さは揺るがない。

そんな樹月に言われて、兄の持つ能力についてを思い返した。

それは時間や空間を越える異能。

兄自身と、妹である私にしか作用しない能力。

そこまで思い出し、ようやく気付く。


「あ……。もしかして……」
「うん。前から約束しておいたんだ。危なくなったら、逃げるって。弥生が優先すべきなのは、僕たちや村のことよりも、茨羅のことだから」


私、の……。


「弥生が捕まってすぐに、村のひとたちが話していたんだ。弥生が消えたって」
「……兄さん……」


良かった……。

どこにいるのかも、無事でいてくれているのかもわからないけど、でも、とにかく村から出られているのなら……良かった。

それならきっと、どこかでまた会えるかもしれない。


「……そっか。ありがとう、樹月。……じゃあ私、そろそろ行くね。澪ちゃん、待ってるし」


名残惜しさは否めないけど、だからって、ずっとここにいるわけにもいかないんだ。

聞かなければいけないことも聞けて少し安心もできたし、もう行かないと。


「絶対……助けるから。待ってて」


そうしっかりと紡いで身を翻そうとした私を、素早く樹月が呼び止める。


「茨羅っ! 手を、こっちに」
「……手?」


いったいどうしたんだろう。

不思議に思いながらも言われるままに手を格子の隙間から中へと入れると、樹月がその手を包み込むように両手でとった。

そしてその手に、ゆっくりと……。



――……口付ける。




「いっっ! 樹月っっ!?」


驚いたことと、何より恥ずかしくなったことで、私は顔を真っ赤に染める。

思わず口をぱくぱくと開閉させてみるけど、そこからうまく言葉が吐き出せない。

そんな私に、樹月は変わらず微笑んだ。


「気を付けて。茨羅……、行ってらっしゃい」
「樹月……。うん! 行ってきます!」


手を振って。



笑顔で。





行こう。





みんなを、助けに。















六之路・了



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