シチ
目が覚めた時、そこはもうあの村じゃなくて。
あの村で見ていたものよりも近く感じる空に、ただ涙が溢れた。
シチ・ヒツゼン
ここが未来だということは、何となく理解できた。
見たことのない物がたくさんあって、行き交う人たちの服装も私たちとは違うから。
……正直、怖い。
だけど、私にはここに全くあてがないわけじゃなかった。
ヒナサキミクさん。
とにかく、兄に言われたそのひとを捜して、私は歩いてゆく。
でも……。
「……訊けない……」
もともと、あまり他人と接することが得意ではないということもあり、なるべく他者と接触しないよう過ごしてきたせいか、怖くて誰にも声をかけられない。
……ヒナサキミクさんについて、尋ねたいのに。
どうしようかと困り果てていた私は、ある物に気を引かれて立ち止まった。
「すごーい……! 何これ、どういう仕組み?」
目を引いたのは、硝子越しに並べられたたくさんの箱の群。
その中のどれもに、小さなひとが入っている。
その光景に驚いて、私はついそれに見入ってしまった。
あんな場所にどうやって入っているんだろう……。
ううん、それより、小人って実在したんだ。
私、絵本の中の存在だとばかり思ってた。
そんなことを思いながらただただその箱を眺めていると、しばらくして……。
「……え?」
これって……。
「皆神、村……?」
ダム建設がどうの、とか箱の中のひとは言っているけど、その意味は私にはわからない。
でも……あれは、確かに皆神村。
遠目に小さく見えただけだったけど、いくら何でも間違いはしないはず。
「あの……っ、あの、すみません。これって……」
訊くことが怖いとか言っている場合じゃない。
だってあれは、皆神村。
みんなで、暮らしていた場所。
私はあそこに行かないといけない。
戻らないと、いけないの。
私は……、私は……。
――償わないと、いけない。
シチ・了
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