ゴ
「お姉ちゃん……。なかないで」
私の手を強く握り、千歳ちゃんが心配そうにそう呟いた。
ゴ・フアン
結局、私が何もできない間にも、祭の日は確実に近付いてきて。
私は千歳ちゃんと一緒に、一度立花家を出ることになった。
まだ閉め切ったりはしないと言っていたけれど、準備があるからと樹月たちの母に言われ。
私たちは今、八重たちの家へと向かっている。
樹月も睦月も、多くは喋らなくて。
ただ「ごめん」と「ありがとう」って、言われた。
――……私、まだ諦めてないのに……ッ!
本当はその時、無理矢理にでも二人を連れて逃げたかった。
でも……。
樹月が、首を振るから……。
樹月が拒否をするから、私にはそれができなくて。
悔しくて、悔しくて。
「大丈夫だから、心配しないで」
別れ際の、樹月の言葉。
「君は、いつでも笑っていて欲しい」
昔から言われ続けたその言葉。
「好きだよ。……茨羅」
私もって答えたけれど、その言葉だけではこの想いのすべては届けられていない気がして。
何が大丈夫なのか、わからなくて……。
不安で、不安で。
ねえ、樹月。
私はあなたと離れてまで、笑っていられる自信なんて……ないよ。
千歳ちゃんの手を握り返し、私たちは八重たちの家、黒澤家の門をくぐった。
ゴ・了
[*前] [次#]
[目次]