この村の祭の話を聞いてから、兄は考え込むことが多くなった。



私も……。










シ・オモイデ










最近、兄がどこかへと出掛ける回数が増えた。

以前は年に一度くらいだったのだけど、それから比べるとだいぶ頻繁に出掛けて行ってしまう。

私は、兄のことだからきっと何か考えがあってのことだろうと、そう思うことにしていた。


「茨羅」
「お姉ちゃんっ!」
「あ……みんな……」


樹月と睦月と千歳ちゃん。

ひとりで部屋にいた私の元へ、みんなが揃ってやって来る。


「お姉ちゃん、だいじょうぶ? きょうも、げんきない?」


部屋に入ってくるとほぼ同時、私にぎゅっと抱き付いた千歳ちゃんが心配そうに見上げてきた。

そんな彼女に、私は小さく笑いかけて首を振る。


「大丈夫だよ。千歳ちゃんの顔を見たら、元気になった」
「ほんとうっ!?」


嬉しそうに笑う千歳ちゃんと笑みを交わして、私はゆっくりと彼女の頭を撫でた。



――……千歳ちゃんは、あの儀式のことを知らない。



そう思うと、胸が苦しくなる。

同時に、だからこそ彼女を不安にさせてはいけないと強く思った。


「……茨羅」


千歳ちゃんを安心させるため、優しくその頭を撫で続けていた私は、樹月に呼ばれて顔を上げる。

目が合った彼は、心配そうに私を見つめていた。



……辛いのは樹月たちの方なのに、私が心配かけてちゃ駄目だよね。




「私は大丈夫だよ。それより、私に用事?」


なるべく安心させたくて。

いつものように微笑みながら首を傾げれば、答えてくれたのは睦月だった。


「せっかく天気も良いしさ、八重たちも誘ってみんなで紅葉でも見に行こうかと思って」


それはきっと、思い出作りのため。

すぐにそう思い至ったのだけど……。



改めてそういうことをすると、本当に別れが訪れてしまいそうな気がして……。



……ううん。

そんなこと、ない。

兄も、どうにかするんだって言っていたし……。



……大丈夫。

そんな別れなんてこないよね、きっと。




「うん、わかった。今行く。……兄さんは出掛けていていないけど」
「そっか。まあ、弥生とはまた後で行けばいいし」


何気なく返してくれた睦月の言葉。

それに私は酷く安堵する。




「そうだよね。また、一緒に行けば良いんだよね」




また、が、あるんだって。



そう、信じさせてくれたから。



「それじゃあ行こうか、茨羅」
「ちとせ、お姉ちゃんと、てをつなぐー!」


差し出された樹月の手を私が取るよりも早く、千歳ちゃんが私の手をしっかりと握った。

思わず樹月と顔を見合わせ、笑い合ってしまう。


「そうだね。じゃあ、手を繋いで行こうか、千歳ちゃん」
「うん!」


暖かくて幸せな、いつもの日常。



こんな時間がいつまでも続けばいいのにと。





強く、強く願った。















シ・了



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