この髪の色も目の色も、ずっとずっと嫌いだった。

誰かに会う度に向けられる好奇や異端者を見るような視線が嫌で。

嘆くことも落ち込むことも多かったから。



だけど……。




「茨羅は母さん譲りの綺麗な髪と目をしてるな」




私は母の姿を覚えていないけれど、兄がそう言いながら優しく笑って頭を撫でてくれるたり。

睦月や千歳ちゃん、八重や紗重が気にならないって言ってくれたりしたから。



そして……。




「茨羅の髪も目も、青空みたいだね。凄く綺麗だよ」




私がこの髪や目のことで落ち込むと、いつでも樹月がそう言いながらこの髪に躊躇いもなく触れてくれていたから。



だから……。





今は、この髪も目も、嫌いじゃない。













ニ・ユウキ













樹月と睦月が揃って風邪を引いてしまった。

なんでも、その風邪は今この辺りで流行ってしまっているらしく。

この間は八重たちが引いてしまい、彼女たちは最近ようやく治ったところ。

なるべく病気が広まらないようにと配慮した樹月たちの母親によって、今は二人に近付くことができないようにされていた。

まだ小さい千歳ちゃんが、二人に会えないことを凄く寂しがっていたから、今は二人の代わりに私の兄がずっと彼女と一緒に遊んでいる。

私も、ついさっきまでは一緒にいたのだけど……。


「……よし。これでいいかな」


日が落ちて外が暗くなり始めたのを見計らって、私は今、家の外に出ていた。

この髪や目の色は以前よりは気にならなくなったけれど、それでもやっぱり周りからの視線は気になってしまうから。

私が家から出るのは、あまり村の人に出会すことがない夜の間がほとんど。



そうは言っても、例え夜でも本当はあまり外に出たくはないのだけど。



でも、今日は特別。



樹月と睦月が苦しんでいるのに、私には何もすることができないから。

だから、せめて。



花を届けようと思ったんだ。




「少しは気が紛れてくれるといいんだけど……」


この花が及ぼしてくれる効果の程はわからないけれど、それでも私には他にできることがないから。

摘み取った花を手に、私は立花家の二人の元へと向かった。















立花家に戻るとすぐに、家の人たちや兄の目を盗んで、樹月たちのいる部屋へと忍び込む。

何とか誰にも見つからずに忍び込むことができ、それに胸中で安堵しつつ、私は小さな声で二人に呼びかけた。


「樹月、睦月……大丈夫?」
「茨羅!?」


驚いた様子で私を見る二人は、呼びかける前から既に布団から上体を起こしていたみたい。


「起きて大丈夫なの?」
「うん、だいぶ楽になったからね」


問えば樹月が小さく微笑みながら頷いてくれる。

その言葉に嘘はないようで、二人の様子を見る限りそれほど苦しそうにも見えなかった。

……良かった、と、思わず小さく息を吐く。


「ところで茨羅、こんな時間にどうしたんだ?」


二人の様子に安堵していると、不思議そうに首を傾げた睦月がそう尋ねてきて、そこで私はここに来た目的を思い出した。

二人の体調が悪くなさそうなことに安心して本来の目的を忘れかけてしまっていたことに、少し恥ずかしくなる。


「あ、これを二人に渡そうと思って……」


そう言いながら差し出した私の手には、花瓶に生けられた先程摘んできた花があった。

そのまま持ってきたんじゃさすがに良くないんじゃないかと思って、空いていた花瓶をひとつ勝手に借りてきてしまったのだけど……怒られない、かな。


「えっ、これを茨羅が?」


家の中にこの花は飾られていないから、外から摘んできたものだとすぐにわかったんだと思う。

二人は凄く驚いていた。


「うん」


二人とも、私が外に出ることをすごく嫌がること、知っているから。

頷く私に驚いていたけれど、私から花を受け取ると、とても嬉しそうに優しく笑いかけてくれた。


「ありがとう、茨羅。凄く嬉しい」


二人が揃ってそう言ってくれたから。

私も、凄く嬉しくなって。


「早く良くなってね」


そう告げて、笑顔を返した。













ニ・了



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