マネカレル、ユメ


「……それじゃあ、また来るね」
「うん。ありがとう」


あれからしばらく経って。



澪ちゃんは、入院した。
















――マネカレル、ユメ――













皆神村から出た後、私はまた立花家でお世話になることができるようになった。



樹月や睦月や千歳ちゃん……。

時代も住む場所も違うけれど、あの頃の三人が私を迎えてくれ。

まだ兄とは再会できていないけれど、兄ともいつか必ず会えるとそう思う。

根拠はないけど、兄はいつでも私を悲しませないようにしてくれていたから。



きっと、また無事に会えるよね。



私は、しばらくの間この時代に慣れるように努力をして。

少し余裕が出てきてから、澪ちゃんと連絡をとってみた。

澪ちゃんと会って話をしたら、彼女はあれ以来繭ちゃんの夢をみるようになったのだと言っていて。

最初は、それで少しでも澪ちゃんの心が癒されるのなら……と思いながら話を聞いていたのだけど。



日を追う毎に、澪ちゃんに異変が起き始めた。



少しずつ、けれど確実に、彼女が眠っている時間が延びはじめたんだ。

今では、起きている時間の方が短くなってしまったほど。

心配した彼女の叔父さん……天倉螢さんが、すぐに彼女を入院させて。

私は時間がある時には、なるべくお見舞いに来るようにしている。


「あ、君は……茨羅ちゃん」
「螢さん。こんにちは」
「こんにちは」


澪ちゃんのいる病室から出たところで、偶然螢さんと行き合い、私は小さく頭を下げた。

螢さんは私の兄を知っているらしく、最初は私と会話することにも警戒していたみたいだけれど。

今はようやく慣れてくれたのか、普通に接してくれている。



――……兄さん、螢さんにいったい何をしたんだろう……。




「また見舞いに来てくれたんだ。今日は澪は起きていたかな?」
「はい。でも私が帰る時には、眠いと言っていましたから……」
「そうか……」


病室の扉を見つめて、溜息をもらす螢さん。

その瞳は凄く心配そうで……。


「ところで茨羅ちゃん。君には何か変わったことはなかった?」
「え?」


変わった、こと……。

それっていったい何のことだろう。

わからないけど……今のところ思い当たるようなことは、何もない……かな。


「いえ、特には……」
「なら、いいんだ」


少し安心したようにそう言って、螢さんは目元を和らげる。

優しいその表情につられるように、私も表情を緩めた。


「それじゃあ、また来ます」
「ああ、ありがとう」


再び頭を下げて、私は螢さんと別れて病室を後にする。



その夜……。





私は、夢をみた。





――真っ白な雪が降る中、静かに佇む古い家屋の、その夢を……。















2007.09.25 始
2008.03.19 了
2011.06.13 改


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