生きて……
困惑する私を、今度は正面から優しく抱き締めて、彼は告げる。
「思い出したのは、ついさっきなんだけどね」
「……思い、出す?」
それって、どういう……。
「僕は、生まれ変わっていたみたいなんだ。僕だけじゃなくて、睦月と千歳も。あの村ではないけど、立花っていう家に」
そんな……。
そんなことが、本当に……?
でも……でも、目の前にいるのは、確かに……。
「茨羅が、あの村に囚われていた僕たちを解放してくれたから、思い出すことができたんだと思う。睦月や千歳も、ちゃんと君のことを覚えているし、凄く君に逢いたがってる」
「……本当、に……」
本当に、樹月、なんだ……。
樹月が、目の前にいてくれているんだ……っ!
「っ樹月……っ!」
彼の背中に腕を回す。
伝う温もりは、確かに暖かくて。
彼は今、生きていてくれているんだと実感できると。
嬉しくて、嬉しくて……。
「茨羅。僕が生まれ変わることができたのは、きっと君のお蔭なんだ。僕は……」
ゆっくりと、体が離れていく。
そして、私の大好きな樹月の優しい瞳が、真っ直ぐに私を見つめてきた。
「僕は、君と生きたい」
蘇る、あの時の言葉。
――一緒に、生きたかった。
叶わないと知っていたから、過去のものとして告げられたその言葉は。
今ならば、未来へと向けられるものだから。
だから……――。
「私も、樹月と生きたい」
生きていきたい。
これからも、ずっとずっと。
今度こそ。
――……あなたと。
夜明け・了
[*前] [次#]
[目次]