紅い蝶



痛ましく凄惨な姿に変わり果ててしまった真壁さんは、苦悶の表情を浮かべて紗重の傍らに浮かぶ。

ひしひしと伝わってくるこの重圧は……苦しみ、痛み……怨み。


「澪ちゃん、一度向こうまで戻ろうっ! ここじゃ狭すぎる」
「う、うんっ!」


たぶん……ううん、間違いなく、あの重圧は私たちに向けられるはず。

今ここで襲われたら逃げようがない。

だからこそ私たちはすぐに階段を駆け上り、あの開けた場所まで戻ってきた。

予想通りその後を追ってくる、楔にされてしまった真壁さん。

私は射影機を握りしめながら、振り向いて真壁さんを見つめ、そのまま澪ちゃんへと告げた。


「澪ちゃん、真壁さんは私が引き付けるから……。だから繭ちゃんを捜して、すぐに逃げて」
「で、でも……」
「大丈夫。きっと、大丈夫だから」


大丈夫……、二人とも、きっとこの村から逃がしてみせる……。



もう誰にも、痛みも苦しみも悲しみも背負って欲しくはないから。



だから……。




「お願い、澪ちゃん」
「う、うん……っ」


懇願にも近い私の言葉に圧され、躊躇いがちにながらも頷いて駆け出してくれた澪ちゃん。

そんな彼女を追おうと動き出した真壁さんを、素早く射影機で写し撮り注意をこちらへと向ける。


「真壁さん、こっちですっ!」


同時に大きく叫べば、真壁さんの注意は完全に私の方へと移った。

その隙を狙って、澪ちゃんは再び階段を駆け下りていく。

それを確認してから、私はしっかりと真壁さんを見据え直した。


「ごめんなさい、真壁さん……。関係のないあなたにまで、こんなに辛い思いをさせてしまって……」


確かに私は、もともとは余所者だったけど……。

それでも、この村で暮らした、この村の一員だから。



私を受け入れてくれた、立花家の一員だから。



私は、そのことに凄く凄く感謝している。



立花家に迎えてもらえたからこそ、樹月に……みんなに、出会えたのだから。



嫌なこともあったし、辛いこともあった。



だけどそれを全部含めて……私は、この村の一員なんだと、迷わず口にすることができる。



だからこそ。




「私が、責任を持って、あなたを解放します」




この村の人たちが犯したことには、この村の者が責任をとらないと。

私は射影機を構えて、真壁さんを捉える。



じりじりと。



近付いてくる真壁さんとの距離が、限りなく近くなるまで。



ゆっくり、ゆっくり……。



待ち続けて……。




「っごめんなさいっ! 真壁さんっ!」




――カシャンッ




「ぁあぁあああぁあっっ」




ありったけの力を込めて射影機に想いを乗せた。

苦鳴を上げ消えていく真壁さんの姿を目に、思わず全身から力が抜けかけるけど。


「! そうだ、澪ちゃんっ!」


休んでいる暇などないことを思い出し、私は慌てて体に力を入れ直すと、すぐに辺りを見渡した。



――まだ……来ていない?



確かに、澪ちゃんと別れてからまだそれほど時間は経っていないだろうけど……。

……何だろう……、何だか凄く……。




「胸騒ぎがする……」




どくんどくんと、高鳴る心臓の音が、まるで警鐘のようで……。



私は嫌な予感を振り払うかのように首を振ると、すぐに澪ちゃんを追って奥へと駆け出した。








[*前] [次#]
[目次]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -