合流



「澪ちゃん!」
「茨羅ちゃん!」


私を見つけて駆け寄ってきた澪ちゃんは、どこか焦っているようでも慌てているようでもあり。

そんな彼女の様子の原因に心当たりがある私は、それを確かめるためにもすぐに疑問を投げかけた。


「どうして戻ってきたの?」
「それが……」


私の問いに、澪ちゃんは口早に答えてゆく。

彼女が言うには、朽木の仕掛けを解き暮羽神社に向かう途中で繭ちゃんが村人たちの霊に捕らえられてしまったらしく。

その繭ちゃんを助けようと追いかけてきて、ここまで戻ってきてしまったみたい。


「繭ちゃん……」


やっぱり、そうなんだ。

私がさっき会って話したのは、確かに紗重だったけれど……。

でも……。


「……ねえ、澪ちゃん。私、さっき一瞬だけ繭ちゃんを見たよ」
「一瞬?」
「……うん。繭ちゃんだと思ったんだけど、でも……紗重、だったから……」


自分でも何を言っているのかわからない。

うまい説明の仕方がわからなくてどう言ったらいいのか悩むけれど、私の言葉に何か思うところがあったのか、澪ちゃんは口元に手を当てて驚いた表情を浮かべた。


「……私も。私も、お姉ちゃんと紗重さんが重なって見えることがあって……」


どういう、こと?



……紗重は、八重に似ている澪ちゃんと儀式がしたくて、繭ちゃんの体を借りている……?



でも、あの儀式は姉が妹を……。



澪ちゃんは確かに八重に似ているけど、双子の妹だよ?



……何が何だか、わからない。



紗重、あなたの考えが、わからないよ……。




「……そう言えば、澪ちゃん、あの……この村の儀式のことは……」
「……うん。知ってる。口にしてはいけない場所のことも、紅い蝶の意味も……」
「そっか……」


やっぱり、知っていたんだ。

そうだよね、これだけ村の中をさ迷っていれば、情報だって手に入っていてもおかしくはない。

だけど、わかっていてそれでも澪ちゃんも戻ってきてしまった……。


「姉が、妹を……。この村では、後に生まれた方が姉なんだよね……」
「……え? この村ではって……?」
「私たちにとっては、先に生まれた方が姉なの」


それって……。



澪ちゃんが、後に生まれたってこと……?



それじゃあ……。




「……お姉ちゃんは、もしかして、儀式を……」
「澪ちゃん?」
「う、ううん。何でもない! 早くお姉ちゃんを捜さないと」
「そうだね。私も手伝うよ。……紗重を、止めないと」
「茨羅ちゃん……。ありがとう」


私たちは顔を見合わせて頷きあうと、一緒に黒澤家を目指すことにした、のだけど……。




「……あれ?」




明かりを持つ澪ちゃんが、私の少し前を歩きだす。



その背が、一瞬……。




「? どうしたの? 茨羅ちゃん」


思わず小さく声を上げてしまったのを聞き止めてか、不思議そうに振り返り首を傾げる澪ちゃんに、私は慌てて首を振る。


「う、ううん。何でもないよ。行こう、澪ちゃん」
「うん」


気のせい……だよね。





澪ちゃんの姿に、一瞬だけ、八重が重なって視えた……なんて。





私は、芽生えた不安に胸元を抑えつつ、先を行く澪ちゃんの後に続いた。















拾四之路・了



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