さようなら


小さい頃から、ずっとずっと一緒だった。

血は繋がっていないけど、本当の兄妹のように接してくれたみんな。



いつでも優しくて、私のことを気にかけてくれて、凄く頼りになる睦月。



私を姉と慕ってくれて、可愛い笑顔で元気をくれる千歳ちゃん。



そして……。



いつも傍にいて、一緒に笑って……喜びも悲しみも、楽しかった時も辛かった時も……いつだってすぐ隣で共有してくれた、樹月。





大好きだよ、みんな。





ずっと、ずっと……大好き。













拾参之路 「さようなら」













蔵に戻って少ししたらすぐに澪ちゃんも戻ってきた。

彼女も無事に家紋風車を集めることができたらしく、これで四つの家紋風車の全部が揃ったことになる。

私の持っていた桐生家の家紋風車を澪ちゃんに渡し、それから私たちはそのままこの蔵で別れることにした。



澪ちゃんたちは双子だから、たぶん、一刻も早くこの村を出た方がいい。



私にはまだやらないといけないことがあるから、澪ちゃんには後から行くと告げて。



樹月たちと一緒に、蔵に残った。




「……茨羅」
「……うん」


外にいると、いつ村の人たちの霊に襲われるかわからないから、蔵の中からは出ないまま。

樹月たちは三人で並んで、私と対峙している。

みんなと私の間に空く、この見えない境界は、決して越えることのできないもの。

生きているか死んでしまっているかの、境。



そして、こちらに立つ私が、向こうに立つみんなのためにできることは……。




「睦月、千歳ちゃん……樹月……。みんな、大好きだよ」




泣いちゃ、駄目。



涙を堪えて、笑顔でお別れしないと。



……約束、したんだから。




「お姉ちゃん……。ちとせも……っ、ちとせも、お姉ちゃんが大好きだよ!」




樹月と睦月の間で、二人に肩を抱かれながらぽろぽろと透明な涙を零してそう言ってくれる千歳ちゃん。




「俺も……茨羅のこと、好きだよ。離れても、ずっと好きだから」




こういう時だって、どこまでも優しい睦月。




「茨羅……」
「大丈夫。私は、笑えるから。みんながいてくれたから、これからだってずっと……笑っていられる」
「……うん」




心配しないで、樹月。



樹月との約束、絶対に忘れたりしないから。




「……みんな、今まで……ありがとう」




言葉だけでは足りないくらい、凄く凄く感謝している。



みんながいなかったら、私はきっと……こんなにも幸せでは、いられなかっただろうから。



私はみんなに会えて、本当に本当に幸せだったよ……。



だから……。




「ありがとう」




私が小さく呟くと同時に、みんなの体が淡く光りだす。



それは茜ちゃんの時と同じ……別れの、前兆。



私の力が、想いが通じ合うことで発揮されるなら……。





みんなには、射影機を使う必要なんて、ないよね。






「お姉ちゃん! いっぱい、いっぱい、ありがとう!」
「……茨羅、今までありがとう。茨羅と過ごした時間、凄く楽しかった」
「……千歳ちゃん……睦月……。……うん」




みんなの体は、もうだいぶ透けてきていて。



本当の別れが、すぐそこにまで迫っているのだと実感させられる。




「……茨羅」
「……樹月」
「君に出会えて、僕は本当に幸せだったよ。……ありがとう」
「私も……っ、私も、幸せだった……っ!」




もう少し。



もう少しだけ、出てこないで……っ。



今は、泣けない。



泣きたくない……っ。





笑って……別れたいの……っ!








「さようなら」








ねえ、私は今……ちゃんと笑えてる?








「さようなら」








三人が揃って告げた直後。



その姿は、宙に溶けるように……消えていった。






「……ぅっ。ぅう……っ」






もう、いいよね?





きっと今だけは、許してもらえるよね?





今だけ……今だけだから……。








「ぁあぁあああぁあぁっっ!」








思い切り、泣かせて……。















拾参之路・了


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