目覚め


「すごーい……!何これ、どういう仕組み?」


腰まで伸びる長い青銀の髪を僅か揺らすように頭を振り、しきりに感嘆する少女。

彼女が食い入るように眺めているのは、電気店のウィンドウ越しに並ぶ、最新型のテレビの数々。

その周囲には、テレビではなく、彼女を見つめる人々が群がっていた。

おそらく、彼女の独特な髪色と、身に纏っている桜模様の淡い碧の着物とが珍しいのだろう。

彼女自身は目の前のテレビに夢中らしく、そんなことを気にした様子はないが。




「……え?」




突然。

先程までのはしゃぎようが、一転して凍り付く。



まるで時を止めてしまったかのようにその空色の瞳は、テレビに映るニュース番組を捉え、動けずにいた。










壱之路 「目覚め」











「大丈夫だから」



――何が?




「心配しないで」




――どうして?




「君は、いつでも笑っていて欲しい」




――わかって欲しい。




「好きだよ。……茨羅」




真っ黒な髪、綺麗な瞳、優しい笑顔。



わかって欲しいのに。



私が笑っていられるのは、いつでもあなたが傍にいてくれたから。



あなたと一緒だから、私は笑っていられるの。



だから、お願い。



離さないで。



離さないで。



私は…………。








「……本当に……変わっちゃった……」


絶望を胸に、ただ茫然と目の前の光景を見つめ続ける。

真っ暗な闇の中に、恐ろしいほど静かに存在するそこは、かつて村だった場所。

記憶にまだ鮮明に描き出せるそことは、大きく変わり果ててしまっていた。


「捜さないと……」


ふらりと、覚束ない足取りで歩き出す。

村の、中へ。



ざわりと辺りで蠢く気配を感じつつ、兄から貰い受けた箱の形をしたものを、強く強く握りしめた。



目指すのは、兄と二人で永くお世話になった場所、この村で唯一居場所となりえた場所でもある……立花家。










壱之路・了


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