サイゴ



知っていたことのはずなのに、理解したくなくて、向き合うことを拒み続けてきていた現実。



それがついに……蓋を開けてしまった。





わかってたよ。





樹月はずっと、すべて過去のこととして、話をしていたから。



温度のない体に、もう温もりが宿ることはないんだって……。





――……わかって、いたの。






「樹月……っ」




離れたくなくて。



離したくなくて。



でも、本当はちゃんとわかっていたから、どうしようもなく不安で、寂しくて。





もっと、もっともっと、一緒にいたかった。





――……一緒に、生きたかった……。





ごめんね、ごめんね……。



私がしっかりしていないから、樹月に辛い言葉を言わせちゃったよね……。



涙が止まらなくて。



私は樹月の背中に腕を回し、抱き締めてくれる彼の優しさに甘えて、その胸に顔を埋めた。



そんな私の頭を、まるで宥めるかのように撫でてくれる樹月。



彼はどこまでだって、優しいんだ。




「茨羅。僕は死んでしまったけれど、ずっと変わらずに、茨羅のことを想ってる。……茨羅、好きだよ」




樹月……。



その言葉だけは、過去の話ではなくて……。





ねえ、今なら……言ってもいいかな。






「樹月……。私も、樹月が好き。樹月のことが、大好きだよ」






言いたくて、伝えたくて。



でも、困らせたくなかったから、告げることのできなかった言葉。



――大好きだよ、樹月。



……だから。



だからね……。




「もう、大丈夫。大丈夫だよ、樹月」




本当は、全然大丈夫なんかじゃない。



寂しくて寂しくて……これ以上ないほど、苦しいよ。



だけど、もうこれ以上、樹月に苦しんで欲しくはないから。



睦月や千歳ちゃんにも、辛い想いとか、して欲しくないから。





……私のわがままで、ここに繋ぎ止めておいたら……駄目だよね。






「蔵に戻ろう。睦月と、千歳ちゃんのところに……」




そうしたら、ちゃんと……。





ちゃんと、お別れ、するから……。





私たちはゆっくりと離れると、少しぎこちないけれど、顔を見合わせ笑顔を交わした。



私今、ちゃんと笑えているかな……。




「茨羅、お願いがあるんだ」
「……うん」
「笑っていて、欲しい」




それは、内向的な私に、昔からずっとかけ続けてくれていた、樹月の言葉。





樹月の、願い。






「うん」




それが、私にできることだから。



私が笑えば、樹月はいつだって、笑顔を返してくれるから。



……今、みたいに。



だから……笑っていないと。




「それと、最期だから……」




小さく付け足すようにそう呟いて、ゆっくりと近付いてくる樹月の顔。



微かに触れ合った、唇。




「いつ……っ!」
「行こうか」




私が真っ赤になっても、樹月は楽しそうに笑うだけで。



……本当は、その笑顔も好きだから、何も言えなくなる。





――……最期だから。





その言葉が、胸に刺さるけど。



私は樹月の手を握ると、迷うことなく蔵を目指し歩き出した。















拾弐之路・了



[*前] [次#]
[目次]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -