サイゴ



「それが茨羅の力なんだよ、きっと。茨羅の想いが通じた証拠、なんじゃないかな」




私の……力?



これが……?



一瞬呆けてしまった私だったけど、はたと思い至り我に返ると、すぐさま樹月に問いかける。


「樹月っ、あの……あのね……っ」


茜ちゃんの言葉を聞いて、自分たちに重ね合わせて傷付いてしまっていないだろうか。

思い出して、また苦しんでしまっていないだろうか。

心配になったけれど……。



……こういう時に限って、うまく言葉が出てこない。



私はもともと言葉選びがうまい方ではないし、下手したら私の言葉の方が樹月を傷付けてしまうんじゃないかと思ったら、何も言えなくなってしまった。

気の利いた言葉ひとつも思い付けない自分に腹が立ち、情けなくも思い悔しくなる。

けれど樹月は私が上手に伝えることができなくても、何を伝えたがっているのかわかってくれたようで。


「大丈夫だよ。ありがとう」
「……うん」


いつものように、私を安心させるための微笑を浮かべて告げられる大丈夫。

樹月は大丈夫だと言うけれど、私の心に残る心配と不安は消えきってはくれない。

信じられないわけじゃないけど、樹月はいつだって自分の中で抱え込んでしまうから。

もしも本当は大丈夫なんかじゃなかったとしたら、それを少しでも和らげてあげられたらいいのに。

私は、うまく言葉にできない代わりに、樹月の手をとり強く握りしめる。



樹月の手はやっぱり冷たいけれど……だからこそ、余計に離したらいけない気がした。





……離してしまったら、消えてしまいそうな気がしたから。





「……茨羅」
「何?」


名前を呼ばれて首を傾げれば、繋いだままの手はそのままに、突然樹月が私を強く抱き締めてくる。

予期せぬことに思わず目を見開いた私の頭の中は、ひどく困惑していた。


「えっ? な、何? どうしたの?」


働かない思考を纏めるよりもとにかく尋ねてみた私を、樹月は腕に少し力を増してより強く抱き締めてくる。

痛みを感じるほどじゃないけど、でも少しだけ苦しかった。

樹月はそのまま私の肩口に顔を埋めて、小さく……でも、はっきりと言葉を紡ぎだす。




「茨羅、ごめん……。僕はもう……死んでいるんだ」




びくり、と。



大袈裟な位、私の肩が跳ね上がった。




「し……知ってる、よ……?」




どくん、どくん、どくん、どくん……跳ねたまま煩く鳴り続ける鼓動の音が、樹月にまで伝わっているんじゃないかと思うくらい大きく響く。



吐き出した声もひどく上擦って、震えて、掠れて……。



知っていた事実を伝えられただけなのに、どうしてこんなにも動揺してしまうんだろう。




「……もっと、君の傍にいたかった。君と、もっとたくさん色々なものを見て、話して……」




待って。



待ってよ、樹月!



お願い、だから……っ!





まだ、その先は……っ。






「一緒に、生きたかった」






涙が、溢れた。








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