樹月


「樹月、話したいことはたくさんあるけど、まずはとりあえず……茨羅が取り乱したその理由を教えて欲しい」


真剣な表情ではっきりと紡ぐ睦月にはきっと、あの光景が視えなかったんだ……。

……ううん、それはたぶん、睦月だけに限ったことじゃなくて……。



視えたのが、私だけ……なんだと思う。



樹月は、睦月の言葉に哀しそうに俯いた後、ゆっくりと話しはじめてくれた。



樹月たちの儀式が失敗したその後。

樹月は八重と紗重をこの村から逃がして……。



そして……この場所で、自ら……首を……。




「本当に、ひとりで何でも抱え込み過ぎるんだよ、樹月は」


睦月が、哀しそうに、寂しそうに小さく笑う。

樹月はたったひとりで、ひとりきりで、睦月のことや八重と紗重のことを悩んで……。

……ずっと、ずっとひとりで抱え込み続けていたんだと思うと、その時傍にいられなかった自分が悔しくて苦しくて悲しくなる。


「ごめんね、樹月……。樹月が辛くて苦しんでいた時に、傍にいなくて……」


傍にいられたからといって、私に何かができたとは思えないけど。

でも、そんな樹月を、放ってなんかおきたくなかった。

樹月がいつも私の傍にいてくれていたように、私も樹月の傍にいたかったよ……。


「ごめん、睦月、茨羅」


どうして樹月が謝るの?

謝るべきなのは私の方なのに。

私は樹月に、何ひとつしてあげられなかった。

……ごめんなさい、ごめんなさい、樹月……。


「だから、謝るなって。……もう、苦しまなくていいんだから」


樹月の言葉に笑ってそう答える睦月に、樹月は少しぎこちないけれど、小さな微笑を浮かべて返して。



それは、以前とほとんど変わらない光景。



そんな二人の姿が、私にとって苦しいほど切なくもあるけど、でも嬉しくもあって……。



二人が再会できて良かったって、素直にそう思う。



けれど。



それと同時に、いつの間にか無意識に現実に蓋をしはじめてしまっていたことに……私は、気付いていなかった。















拾壱之路・了



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