繭
狐に摘まれたような気持ちになりつつも、私たちはとりあえず簡単に自己紹介を交わし、現状についてを話し合う。
「それじゃあ、その暮羽神社という場所から、外に出られるの?」
この部屋に置いてあった樹月の日記に書いてあったことを澪ちゃんが告げると、繭ちゃんは少し不安そうに問い返した。
……いくら何でも、樹月の日記を勝手に読むのは嫌だったけれど、何か情報を知れるかもしれないとなると強く否定することもできなくて。
ごめんね、樹月……。
胸の内で謝ることしかできない私を、どうか許して欲しい。
「うん。その前に、朽木で仕掛けを解かないといけないみたいだけど……」
繭ちゃんの問いに、そう澪ちゃんが答える。
彼女のいう仕掛けには、この村にある四家の家紋風車というものが必要とされるみたいで。
立花家の家紋風車は、樹月がここに置いておいてくれたみたいだけど……。
「とりあえず、その朽木に向かってみよう?」
家紋風車を集めてからの方が効率はよさそうだけど、残念ながらそれがどこにあるか詳しくはわかっていない。
桐生家だってあちこち調べたはずなのに、それらしきものは見かけなかったし……。
だからとりあえず先に仕掛けの確認だけでもしておこうという私の提案に、澪ちゃんと繭ちゃんは異議を告げることもなく揃って頷いてくれた。
そんな二人の姿から、次いで私の視線は睦月と千歳ちゃんの方へと移ろいでゆく。
「ごめんね。私、先に二人を逃がすから、樹月の所には二人で行っていてもらってもいい?」
これは私が決めたこと。
二人まで付き合う必要はない。
そう思い、樹月は蔵にいるからと続ければ、二人はすぐに顔を見合わせた。
交わされる想いが何かわからず首を傾げれば、こちらへと向き直った千歳ちゃんが、私に抱きつきながら顔を上げ見上げてくる。
「ちとせも、お姉ちゃんといく。お姉ちゃんといっしょに、いつきお兄ちゃんにあいにいきたいから」
「千歳ちゃん……」
「茨羅を置いてなんか行けないだろ。そんなことをしたら、俺が樹月に怒られる」
「睦月……。ありがとう」
ごめんね、付き合わせちゃって。
だけど屈託なく笑ってまるで当たり前のことのようにそう言ってくれる二人が、すごくすごく……嬉しかった。
私は二人に微笑みかけると、改めて澪ちゃんたちへと向き直る。
「じゃあ、行こうか」
とりあえず、目指す先は朽木。
――外ではもう、祭りが始まろうとしていた。
拾之路・了
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