睦月
「ねえ、睦月……あのね、その……」
訊きたいことなんて、たくさんある。
どうして、あんな儀式を望んだのか、とか。
他に……路はなかったのか、とか。
……だけど、それを訊くことは私にはできない。
だって、睦月がどれだけ自分の体のことで苦しんでいたのか、知っているから。
体の弱い睦月は、樹月と一緒に逃げることもできなかったんだって、知っているから。
樹月が、凄く凄く辛くて苦しんだのと同じように、睦月だって、苦しくて苦しくて辛かったんだと思う。
あの儀式には、全然納得できないけど……。
私がそれを二人に言うことは、できないんだ、きっと。
……私は……いつもいつでもとても無力で。
それが、凄く凄く……悔しい。
「茨羅?」
中途半端に言葉を紡いだまま黙り込んでしまった私に、睦月が不思議そうに首を傾げた。
私は一度首を振ると、訊きたかったことすべてに蓋をして、別のことを口にする。
「樹月に……会いたく、ない?」
会って欲しいけど、それは私が無理強いすることじゃないから。
だから問いかけにして尋ねれば、睦月は困ったように笑みを浮かべる。
「会えるなら、会わなきゃいけないとは思うんだけど……。俺は、ここから動けないんだ」
……動けない?
ええっと……地縛霊って、ことなのかな?
……どうにかできないだろうか。
せっかく睦月が樹月に会おうとしてくれているんだもの、二人をもう一度会わせてあげたい。
睦月が、動けさえすれば……。
「……え?」
私が願った瞬間、睦月の体が淡い光を放ち出し、二人揃って驚きの声を上げてしまう。
いったい何が起きたのかと戸惑うけれど、その間にも光自体はすぐに収まってゆき、睦月は驚いた表情を浮かべたまま自分の手の平を見つめていた。
「茨羅、今何かした?」
「え? う、ううん。何も……。睦月が動けるようになって欲しいって、願いはしたけど」
それが、どうかしたのかな?
首を傾げる私の目の前で、睦月は一歩足を踏み出す。
そのまま、二歩三歩と部屋の中を歩き、更に一度部屋からも出てまた戻ってきた。
……て、あれ? 部屋から、出る……?
「む、睦月?」
「どうしてかはわからないけど、突然体が軽くなって……。動けるみたいだ」
突然動けるようになるなんて、いったい何がどうなっているんだろう。
不思議に思うし困惑もするけど、でも。
「良かったねっ、睦月っ!」
今は何より、動けるようになってくれたことが素直に嬉しい。
理由を追及して判明するかはわからないけど、だからこそそれよりも、この状況をうまく活用したいと思う。
とりあえず戸惑いは置いておき、笑顔で声をかけた私に対し睦月も微笑しながら頷いてくれた。
「ああ。これで樹月に会いに行ける」
「うん。じゃあ、樹月に会いに……あっ!」
「? 茨羅?」
そうだ。
樹月に会いに行く前に、私にはやることがあるんだった。
言葉の途中でそのことを思い出した私は、慌てて睦月にそれを伝える。
「ごめん、睦月。私、繭ちゃんを捜さないと……」
「マユちゃん……?」
「うん。えっと、この村に迷い込んじゃった、双子のお姉さんなんだけど……」
ごめんね、澪ちゃん、一時でも忘れちゃって……。
ここに来た目的は繭ちゃんを捜すためだったと改めて自分に言い聞かせ、気持ちも改める。
早く樹月と睦月を会わせてあげたいけど、でも今はまず繭ちゃんを捜すことを優先しなければならない。
「双子……。茨羅、俺も手伝うよ」
「本当? ありがとう、睦月!」
この村での双子という存在が持つ意味。
その重要性と重大性……そして危険性を知っているから、だから睦月はすぐにそう告げてくれたんだと思う。
一刻でも早く、澪ちゃんたちはこの村から出た方がいい。
私と睦月は顔を見合わせ頷きあうと、繭ちゃんを捜すために一緒に部屋を後にした。
八之路・了
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