「兄さん……、その本、面白い?」


ふと唐突に声をかけられ、読んでいた本から意識を引き戻すとその声の主に視線を移ろわせる。

読書中に声をかけられると大抵は無視するのだが、彼女に対してはそんなことができるはずもない。





何せ彼女は、俺の可愛い可愛い大事な妹だからな。










第二夜 「妹」










俺は目の前で少しだけ口を尖らせている妹、茨羅に優しく微笑みかけてみせる。


「別に、面白いから読んでるわけじゃないさ」
「? 面白くないのに、読んでるの?」


きょとんと首を傾げ、不思議そうに俺を見つめる茨羅。



……まあ、そりゃ不思議だよな。



一概に本を読むと言っても理由や目的は様々だろうが、あいにく彼女はあまり字が読めない。

それほど難しい字でなければまた違うのだが、それに起因してか好んで本を読むこと自体も少なく、多少偏見じみた目もあるのだろう。

身近に読書好きの、暇さえあれば本に手を伸ばしているようなヤツがいることもまた、それに拍車をかける要因になっていると俺は思う。

とにかく、俺が今読んでいるのは、未来で借りてきた、この村に関する記述の載る本。

俺の目的は茨羅の思う楽しむための読書ではなく、情報を得るための読書だった。

そうでなければ何も好き好んでこんな陰鬱とした気分にさせる本なんざ読んだりする趣味はない。

必要だから仕方なしに読んでいる、といったところだ。

ちなみにこれ以外にもいくつか借りたのだが、一応どれも読み切っていた。



そんな俺にこの本を貸してくれた人物。

それは、初めて未来に行った時に出会った青年、雛咲真冬だった。



あいつは、どうやらやたらと霊感があるらしく、最初は俺の持つ刀に反応したらしい。

母が作った、この刀の力を外に漏らさないようにする袋に入れていたのに、よく気付いたものだと感心する。



俺はあいつに出会い、この村のことと、妹を救いたいということとを告げた。

その結果、人の好い真冬は、俺に協力してくれたというわけだ。


「……兄さん、あの……、ごめんなさい」
「ん?」


突然俯き、謝りだす茨羅に、俺は理由がわからず首を傾げる。

そんな俺の目の前で、妹は申し訳なさそうに伏し目がちに続けた。


「本、読んでいたの、邪魔しちゃって……。兄さん、久々に帰ってきたから、嬉しくて……」


ああ、何だ。そういうことか。

可愛らしい妹のその言葉に、俺の表情は自然と緩む。

いや本当、なんでこんなに可愛いんだろうな、俺の妹は。


「気にするな。茨羅より大切なことなんて何もないさ。俺だって、茨羅といられるのは嬉しい」
「本当っ!?」


俺がそう言えば、茨羅は先ほどまでとは一変し、とても嬉しそうに顔を輝かせる。

それが可愛くて、嬉しくて。

頭を撫でてやれば、彼女ははにかむように微笑んだ。


「良かった……。本当はね、ちょっと本に嫉妬してたの。兄さんも樹月も、読み出すと夢中になるんだもの」


彼女が口にした、俺ではない人物の名に、思わずぴくりと手が止まる。


「……茨羅?」
「? 何?」
「俺はもう少ししたら、また出かけないといけなくなるが……。樹月と睦月には、近付くなよ?」







にっこりと。

有無を言わせぬ迫力でそう言い置く俺に、茨羅はただ、不思議そうに首を傾げるだけだった。










第二夜・了


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