氷室家当主


月詠堂に向かったところ、下された次の指令。



それは……。




「おらっ、待てっ! もう首斬れてんだから、今更もう少し斬られたところで構いはしねえだろっ!」
「ひぃぃぃぃぃっ!」


宮司たちの霊を追い回すこと四体目。

どいつもこいつも既に首が斬られているっていうのに、改めて俺に斬られることを怖がって、あちこち逃げ回りやがる。


「捉えたっ! 消えやがれっ!」
「ぎゃあぁあぁあぁあっっ!」




ざしゅっと。



ぶった斬ったところで、一段落。

遺された本を回収して、そのまま近くで待機していた深紅のところまで戻った。


「ほら、コレ。さっさと戻るぞ」
「そうですね。……ところで弥生、ストレス溜まってます?」
「……ヨコモジワカラネエ」


視線を明後日の方向へと飛ばし片言で紡ぐ俺の答えに、深紅はやはり溜息をもらし。

もう深紅に呆れられることにも慣れてきたな、と、どこか遠く思いつつも、俺たちは月詠堂へと戻り始めた。













第十二夜 「氷室邸当主」













そう。



鬱陶しい四人組を倒したことによって、ついにこの時が訪れたのだ。




「ぅおらぁぁぁっ! 今更大量の血痕やら鬼の面やら怖くねえんだよっ! 刀は俺の獲物だってこと、わからせてやるっ! おい、こらっ! 逃げんじゃねぇっ!」
「わぁあっ!? な、何なんだっ、アイツはっ!」
「……何なんでしょうね」


嬉々と声を上げて氷室家当主を追い回しながら、意気揚々と刀を振り翳す俺。

必要以上に鬼気を放つ俺から、奇声じみた悲鳴を上げつつ本能的に必死で逃げ回る当主。

そんな当主の焦燥と恐怖を多分に含んだ言葉を耳に、深紅は俺たちから離れた場所で、遠い目をしながら溜息を吐いている。



少しして。



いよいよ、その時がきた。




「捉えたっ! はははっ、俺の勝ちだな! 消えとけっ!」
「ぎゃあぁあぁあぁあっ!」




翻した一閃により、当主を闇へと葬り去る。

ふ、俺に勝とうなんざ百年あってもまだ早い。



ちなみに、後に深紅に聞いた話によると、この時の俺は心底愉しそうな顔をしていたそうだ。

まあ実際、これでだいぶ鬱憤が晴れてくれたしな。




「……なあ、深紅」
「はい?」
「霧絵、助けてやりてえよな」


ぽつりと、突然とも言える呟きを紡いだ俺に、何故か深紅は驚いたような視線を向けてきた。


「……何だよ?」
「いえ。何となく、らしくない気がしまして……」
「お前、俺のことを何か勘違いしてるだろ? 俺は優しいんだよ」
「……そうでした。女性には、優しかったですよね」




……何か、トゲ感じるんだけど。



気のせいか?



深紅の言い方に何だか含みを感じて思わず眉根を寄せた俺に、しばらくじとっと睨みをきかせて見上げてきていた深紅は、やがて緩やかに微笑を浮かべた。


「冗談ですよ。……助けて、あげたいです」




想い人と引き離されて。



辛い役割ばかりを背負わされて。



痛くて、苦しい想いばかりを抱いて。





それは……。






「ああ、助けてやろうな、絶対」




心の中で思いかけたことに蓋をして。



笑顔を、深紅へと向ける。




「さて、そろそろ行くか。たぶん、もうすぐ終わるだろ」
「根拠はあるんですか?」
「ないな」
「……やっぱり、弥生は弥生ですね」
「褒めてるんだろ?」
「ええ、褒めてます」


顔を見合わせて、笑い合う。



大丈夫。



真冬も、霧絵も、きっと救える。





救える、絶対に。







そう信じて、俺たちは再び月詠堂へと向かった。















第十二夜・了


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