宗方
「おいコラ。出会い頭に刃向かってくるとは、いい度胸じゃねえか、宗方ッ!」
「わぁあっっ!」
「……弥生、もう完璧に悪役ですね……」
面倒臭い面の仕掛けを解いて。
悪趣味全開の目隠しの面を手に入れて。
やって来た鬼の口で、俺は懐かしの再会を果たした。
第十夜 「宗方」
「……ったく。八重は記憶ねえし、何かさっきから地震は酷ェし。本当、お前最悪」
「えっ!? わ、私のせいなのかっ!?」
取り敢えず、ひとしきり刀を振り回して追いかけ回したから、少しは気が済んだ。
逃げ惑う宗方の姿は少しばかり久々で、ちょっとだけ懐かしくなる。
そういえば、一度腕を切断しかけて大騒ぎになったことがあったな。
まあ斬るつもりで斬りかかってんだから多少斬られたくらいで喚くなと思う。
……と、それはそれとして。
当然、この屋敷に来てから今までの苛立ちの捌け口にすることは止めない。
もちろん、八重のことも、何故かさっきから揺れ出したこの地震のことも、宗方には責任がないことくらい、わかっている。
だが、それとこれとは話が別だ。
どうせ宗方には俺に斬られるか俺の鬱憤の捌け口になるかくらいしか使い道はねえんだし。
斬られる前に溜まった鬱憤を少しぐらい吐き出しておかねえとな。
「で、宗方。お前には訊きたいことがたくさんあるんだ。……と、まずは、お前は俺のことちゃんと覚えてるんだよな?」
「あぁ、もちろん。茨羅ちゃんは元気……ひぃっ!?」
ズドンっと。
宗方の鼻先すれすれの空を裂き、その眼前の床に思い切り刀を突き刺す。
そして俺は、この上ないほどの満面の笑みを浮かべてみせた。
「元気だが……何か?」
冷たい鋭さを宿し、低く問う。
宗方が情けない悲鳴を上げたのは、俺の気のせいだということにしておいた。
「い、いや! いやいや! 元気なら、いいんだ!」
「……弥生……」
慌てる宗方を目に、その怯えように満足して刀を退けば、深紅から呆れたような視線を向けられる。
とりあえずそれには気付かなかったふりをして、俺は改めて宗方に本題を持ち出した。
「……宗方。あの村に、何があった? ……誰の儀式が、失敗したんだ?」
わかっている。
あの村は、この時代では既に、儀式が失敗したことによってあの場所から出た闇へと飲み込まれてしまっているのだということを。
ただ、後世に伝えるものとしては、誰の儀式が失敗したのかなどよりも、その失敗したという事実の方が重要なのだろう。
大なり小なり脚色を加えて伝えるそれは、ほとんどが怪談誌だった。
……予想だけならば俺の中でもついているが、それを確信にするには、手持ちの情報が足りていない。
俺の予想を否定して欲しいから、という想いがあることも、否めないのだが。
とにかく、詳細をこいつに訊かねえと。
「……失敗したのは、立花家の双子だ。私は樹月に頼まれて、八重と紗重を逃がすはずだった。……だが……」
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