ジュウイチ



茨羅は逃がした。

後は……あの腹の立つ儀式を、止めるだけ。













ジュウイチ・ミンナデ













……考えてみたら。

俺、生身の人間って斬ったことねえんだけど。

……この刀、まさかありえないものしか斬れねえってことはないよな?



…………峰打ち、じゃあなあ……。



そんなことを考えながら、自ら訪れた敵の本拠地、黒澤家。


「……っ弥生!? どうして……っ」


お、何だ、俺運良いな。

出迎えが八重と紗重なんて、幸先良さそうじゃねえか。

まあ、八重の方はつい今し方会話した内容のことがあるから、心底驚いたように目を見開いていたが。


「弥生、駄目……。お願いだから、この先には行かないで」
「私たち、弥生に生きて欲しいの。だから……っ」


まるで縋るかのように二人はそう言うが、あいにくその願いを聞いてやることはできない。

悪いな、八重。

嘘を吐いたつもりはないが、何もしないままに諦めるつもりも欠片もないんだ。

とは言っても……。


「生きるさ、当然。……みんなで、な」
「……弥生ッ」


喜びと不安とが混じり合った、複雑そうな表情の八重。

その隣では、紗重が苦しげに顔を歪ませながら俯いていた。


「……正直、どこまで俺の力が通じるかはわからねえ。だが、何もせずにただ諦めるなんてできねえからな」
「……ありがとう」


泣き出しそうな声で礼を言う八重の頭を、軽く撫でてやる。

そう言えば、昔はよくこうして二人の頭を撫でてやったな、とか。

……そんなことを考えて、ジジ臭ェかと内心で苦笑した。


「弥生……私……。ううん、気を付けて」


何かを言おうとして、けれど八重は首を振りそれを止めると、ゆっくりと体をずらして道を空けてくれる。

つられるように、紗重も身を退いてくれた。


「……危なくなったら、すぐに逃げて。誰よりも自分のことを優先させて、弥生」
「同じことを樹月にも言われた」


本当に、こいつらは……。

どこまでも、人が好くて。



だからこそ。



――……あんな儀式、させてたまるか。




「わかってる。いざとなれば逃げさせてもらうさ」


そう答えれば、黒澤姉妹は安堵した様子でようやく小さく微笑んでくれた。


「じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい、弥生」


行ってくる、は、帰ってくるための言葉。

俺は、また茨羅と二人でみんなの元に帰ってくる。



……そう、胸の内で呟いた。















ジュウイチ・了



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