ハチ
「さて、それじゃあ借りた本を纏めて返しに行くか」
祭が始まる前に未来へ行けるのは、これが最後になるだろうから。
そしたら、俺はこの祭を止めるために最後の手段を決行する。
だから……。
もう少しだけ待っていてくれ、茨羅……。
ハチ・シッソウ
……よし。
真冬の家の前に出ることにもだいぶ慣れてきたな。
さて、それじゃ……呼び鈴鳴らすか。
……未来って、便利なことも多いが、何かと面倒だよな。
「……はい」
お、この声は……。
「深紅か? 弥生だ。真冬に会いに来た」
「! 弥生ッ!」
……ん?
今、何か深紅の様子おかしくなかったか?
「弥生!」
俺が訝しんでいる内にも、大きな音を立てて扉を開き、今にも泣き出しそうな程に顔を歪めた深紅が飛び出してきた。
何だ? やけに慌ててるじゃねえか。
「は? どうした、何かあったのか?」
「……兄さんが……ッ、兄さんがっ」
真冬が、どうした?
驚いて困惑する俺に、深紅は声を震わせ、それでもしっかりと慌てている理由を告げる。
「兄さんが……氷室邸に……っ」
それが、あの長い夜の始まりだった……。
ハチ・了
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