シチ



「弥生」
「おう、優雨。編集者ってのも割と楽しいもんなんだな」
「……勘弁してくれ……」


真冬を通して知り合ったあいつの友人、優雨と螢。

ただ真冬に世話になるだけというのが嫌だった俺は、時間を見ながら優雨の手伝いをするようになっていた。













シチ・エン













「鬼……。鬼だ……。鬼がいた……」


ぶつぶつと陰気臭く呟く螢。

半ば放心状態のようにも見えなくはないが、それにしても鬼だ鬼だと失礼な言い種だな。


「ははは。弥生が行くと、螢の仕事が早くていいな」
「冗談はよしてくれ、優雨。俺の身が保たない」
「あれくらいで音を上げてんじゃねえよ。斬られないだけマシと思え」
「さらりと殺人宣告するなよ!」


楽しそうに笑う優雨と、疲れた様子で息を吐く螢、そしてそんな螢へと鼻を鳴らして答える俺。

そんな俺たちを、苦笑混じりに真冬が見やる。

俺たちが揃うと、大体いつもこんな構図に仕上がるな、なんて他人事のように軽く思った。


「それで弥生、自分の方はどうだった?」


話題を切り替え、真冬に問われたその内容はいろいろと頭が痛くなるようなもので、俺は腕を組んでつい眉根を寄せてしまう。


「んー……。詳しい情報まではやっぱり手に入らねえな。知ってることや、結果ばかりが記述に残ってる」
「そうか……。僕たちも調べてはいるんだけど、やっぱり都市伝説の類にされてしまっているから……」


恐怖感を煽ることができれば、それでいいのかもしれない。

結局、今の真冬の言葉通りの域を出ないから、俺が求めているものに対する情報に関して大したものが手に入ることもなく。



……皆神村のことは、推測の域を出ることはないだろうな。



やっぱり、力ずくでしかあの儀式は止められねえか……。



もう、時間もねえし。




「……弥生」
「なぁ、真冬。茨羅の頼る先を、お前と深紅に任せてもいいか?」


真冬になら茨羅を頼むこともできるし、それに深紅は丁度茨羅と同じくらいの年齢だ。


「その時は、もちろん弥生も一緒にだろう?」
「……そうだな。頼む」


真冬は、本当に人が好い。



……いや、優しいんだ。



未来に来て、一番最初に出会えたのがお前で、本当に良かったよ。




「たぶん、祭が始まる前に来ることができるのは、次で最後になると思う」
「……わかった。弥生、気を付けて」
「ああ。真冬も優雨も、元気でな。螢は心底どうでもいいが」


そう言い終えて、俺は真冬と優雨と笑みを交わし合い……。

螢が何か叫んでいたことは無視して、皆神村へと戻った。















シチ・了



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