ロク


「なるほど……。事情は大体わかった」


そう告げたのは、未来で出会った雛咲真冬という男。

どうやら人が好い人種らしい彼は、見ず知らずの俺の話を親身になって聞いてくれた。



……世の中、害虫だらけでもねえってことか。













ロク・ヒナサキ













真冬に聞いた話だが、この時代では着物姿で街を歩くと目立つらしい。

そのため、俺は真冬の厚意により、未来にいる間は体格に大差ないことから彼の服を借りることにした。

それと、寝る場所や食事まで世話になっている。



本当に、真冬は俺の恩人だ。

感謝してもしたりない。




「弥生、図書館の方に行ってみたらどうだろう」
「……図書館、か」
「うん。たぶん、そこでなら欲しい情報も見つかるんじゃないかな」


情報を集めていると告げた俺のその目的に出した真冬の提案は、俺が考えていたことに沿ったものだった。

……なるほど。

やっぱりどの時代でも、情報源は主に本だってことか。


「僕の方も色々調べてみるよ」
「悪いな」


本当に、何から何まで。

こんなに頼りすぎるのは、さすがに気も引けるが……。


今は時間がねえからな、素直にその厚意に甘えさせてもらうしかない。

いつかちゃんと恩返しができればいいが。

そんなことを考える俺の耳に、新しく第三者の声が届いた。


「図書館に行くなら、私も付き合いますよ、弥生」
「深紅」


いつから話を聞いていたのか、そう紡いだ第三者……真冬の妹である深紅は、俺たちの傍まで歩み寄り、すっと俺を見上げる。

真冬を通して知り合った俺たちだが、深紅は最初俺のことを警戒していた。



……というよりも、他人を警戒している、といった感じだったか。



その理由は、やたらと強い彼女の霊感にあるのだと真冬が言っていたことを思い出す。

まあ確かに、周りの人間と違うところがあるということは、得てして受け入れられ難い要因となってしまうわけで。



……茨羅も、辛い想いをたくさんしてきた。



俺にとってみれば、そういう狭量な人間の方が心底下らねえと思うがな。

まあ、今はその話を突き詰めるのはやめておく。

とにかく、少ししてからは、深紅も多少は俺に慣れてくれたようで。



――……一番の理由は、おそらく俺もありえないものたちを視ることができるからだったと思うが。



とりあえずそういうわけで、今みたいに普通に話しかけてくれる程度には親しくなったわけだ。


「調べものは、人が多い方がはかどると思います」
「……そうだな。じゃあ悪いが、頼む」
「はい」


話はそれで決まり。

俺は一度真冬に別れを告げると、深紅と共に図書館へと向かった。















ロク・了


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