「……地蔵?」


どことも知れない山の中を行き、一番最初に気付いたそれは双子を象ったひとつの地蔵。

初めて見たその造りに僅かに気を取られつつも、俺は幼い茨羅の手を引いて先へと進む。

生い茂る木々を縫うようにして、そのまま少し歩いたその先で辿り着いたそこは……。


「村だ……」













ニ・タチバナ













山奥にある小さな小さなこの村は、どことなく外界と隔絶されているように感じさせる。

警戒しているのか単に珍しいからかはわからないが、余所者である俺たちに好んで近付いてくるような奴はおらず、かといって完全に無視するわけでもなくただ遠巻きにこちらへと視線を投げていた。

そんな村人たちは、髪と瞳の色の特殊さ故か、皆茨羅へと好奇と奇異なモノを見るかのような色をその視線に宿し。

俺はそれに対する不快感から眉根を寄せつつ、怯える茨羅を庇うように抱き寄せて、その状態のままこの村の中を歩いて行った。



あの村人たちは癪に障るが、戻る場所も行く先も持たない俺たちは、この村に受け入れてもらえるよう願うしかない。

いつまでもうろうろと時空を越えたり歩き回ったりするのは、茨羅の幼さでは辛いだろうし。



そう考えながらしばらく村の中をさまよっていると、いい加減見かねたらしい数人の村人たちに、この村で一番大きな屋敷へと連れて行かれた。

そこは黒澤という人物の屋敷らしく。

どうやらこの村で一番権力を持つ、代表格的な家のようだ。

そこの当主に目通しされた俺は、行く場所も住む場所もない身寄りのない身なのだと、嘘を交えた話をした。

すると当主はしばらく悩んでから、俺たちをこの屋敷へと案内してきた村人の一人を呼んだ。

その人物を前に、当主は静かに言葉を下す。



――俺たちを、しばらく預かるように、と。



この時の俺には当主の考えていることなどまったくわかっていなかったが、とにかく茨羅のためにも寄り辺が見つかったということに安堵した。



その後、その村人に案内されて移動した先は、立花という人物の住まう家で。

どうやら、この家に俺たちと年の近い双子がいることが、ここに招かれた主な理由だったようだ。

その双子というのが、樹月と睦月というまだ幼い兄弟で、着いてすぐに紹介を受けた。



……しばらく後になって知ったことだが、この村の双子は後に生まれた方が兄または姉なのだそうだ。



それから、どうやら睦月は体が弱い。

生まれつき、だと言っていた。



まあ、そうは言っても男は男だからな。

茨羅にはきちんと警戒させるが。



とにかくそういうわけで、俺たちは今後この立花家にて世話になることになった。















二・了



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