メグル、ヨル


あれから。



二年の月日が、経ちました。















――メグル、ヨル――















私はあの時から、ありえないものを視ることがなくなり。

しばらくの間、毎夜続いていたあの時の夢も、ようやく見なくなりました。



私は彼と別れた後、怜さんというカメラマンの女性のアシスタントをさせて頂くことになり。

今は、その怜さんの家でお世話になっています。




「……兄さん」




机の上に飾ってある写真立て。

そこでは確かに、私の隣には兄がいるのに。



今ではもう、この手が兄に届くことはありません。



私は目を伏せて溜息を吐くと、いつも持ち歩いている手帳を取り出し、ゆっくりと開きました。




「弥生……」




視線の先には、笑顔を浮かべた私と兄と……弥生の、三人で撮った写真が挟まれていて。



それは、写真を撮られることを極端に嫌がった弥生が写った、たった一枚しかない写真。



私は、ずっと……ずっと大切に持っています。




「……もう、二年も経ちましたよ」



必ずまた会えると約束して、別れたあの時から。




「……信じていますから」




あなたが、会えると言ってくれたから。



あなたの言葉だから。





――私は、また会えると信じています。





一度目を閉じて、深呼吸を一つ。

再び目を開けた私は、静かに手帳を閉じると、写真立ての中の兄に微笑を向け、いつものように声をかけます。

たとえ、この声がもう、本当に届くことはないのだと、気付いていても。




「行ってきます」




怜さんと、二人。



目指すのは……。





――……夢の屋敷。















2007.09.25 始
2008.02.21 了
2011.06.05 改


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