再会
俺たちが、今いるこの部屋を後にしようとしたその瞬間。
壁にかけてあった鏡の中から、ゆっくりと霧絵が姿を現した。
……ああ、そうか、鏡か。
鏡が、霧絵が現れるための媒体だったのか。
……って、そんなにのんびり考えてる場合じゃねえんだって。
「深紅、走れっ! さっき見つけた簪、たぶん月詠堂の地下にあった扉が開くんだろ」
「そうですね。……弥生、今度はちゃんと一緒に来て下さい」
「わかってるって。俺も後がねえんだしな。行くぞ!」
「はいっ!」
追い付かれたら、終わり。
俺と深紅はとにかく走って、転ばないよう注意しながら階段を一気に駆け下り、中庭へと飛び出る。
そのまま少し走ったところで、ようやく霧絵の気配が消えてくれた。
「諦めて、くれたんでしょうか?」
「……そんなわけ、ねぇよな。たぶん」
「弥生、少しくらい希望を持たせてくれても……」
ん? ああ、なるほど。
随分長いことこんな場所にいるんだし、深紅だっていい加減、肉体的にも精神的にも疲れてきていたっておかしくはねえか。
「大丈夫だろ。俺がついてるからな」
「…………」
………………。
何だよ。
何でそんな驚いたような顔してんだよ。
「……そうですね。頼りにしてます。……行きましょうか」
「おう」
……何か、妙な間が開いた割にはちょっと機嫌が良くなってないか?
女心って複雑だな。
………俺には良く、わかんねえよ。
第十四夜・了
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