予感


「う……うう……。ぼく、おじさんに、それをわたしたかっただけなのに……。みことちゃん……。うわぁーんっ!」
「……弥生、子供を泣かせるなんて、大人気ないですよ」
「俺のせいかよっ」


……まあ、泣かせたのは確かに俺だろうけど……。

ついに泣き出してしまったガキの姿を目に、深紅から半眼で責めるような視線を突き刺される。

ったく、俺たちの命がかかってるってこと、忘れてるんじゃねえよな。



……あ。



そうだ、丁度良い。

こいつなら知ってるかもしれねえし、ちょっと訊いてみるか。


「なあ、そのおじさんって、もしかして宗方のことか?」


何だかあんまり理解したくはなかったが、ここに来るまでにわかったこと。



それは中庭で見た、首つった女性の霊、あれが、やはり八重だったということだった。



信じたくなかったし信じられなかったため目を逸らしていたそれは、途中で集めた情報が事実として俺に突きつけてきたのだ。



そんな八重には、どうやらいつの間にか子供ができていたらしい。

……それはつまり、夫もいるということで。

それが……。




「……うん」
「やっぱりな……」




宗方良蔵。

あいつが、八重を……。



……なら、紗重は?

八重がいるのに、俺はまだここで紗重の姿を見ていない。

とても仲が良く、何をするにも一緒で、紗重が病弱な分いつもよく面倒をみていた八重。

そんなふたりが離れ離れになっているとはとても思えないんだが……。



……まさか……。



いや、だが……。




「弥生?」


思わず思考に耽ってしまっていた俺の顔を、深紅が心配そうに覗き込む。

その視線を受け、俺は我に返った。


「……どうかしましたか?」
「あ、ああ……。いや……」


まだ、決まったわけじゃ、ない。

決まったわけじゃないんだと、俺は必死に自分に言い聞かせる。


「進むぞ、深紅」
「えっ? あ、ちょっと待って下さい、弥生!」


ふらりと歩き出した俺の背を、深紅が慌てて追ってくる足音が聞こえた。

だが今の俺は、自分で描いた嫌な予感で頭の中が一杯で。





振り払えないその想いに、俺は刀を持つ手に知らず力を込めていた。















第八夜・了


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