緒方
で、着物が沢山掛けられている部屋までさっさとやって来た。
あ、途中で何かおっさんの霊に会ったけど、俺が叩き斬ったから問題ない。
もちろん、問答無用で、だ。
てーぷれこーだーとやらは、しっかり貰っておいてやったがな。
「……鍵、必要みたいですよ、弥生」
「だな。しかもその写真を見るからには、戻る必要もあるみてえだし」
部屋の中に設えられた鏡台の前で、二人で揃って顔をしかめる。
思うものは、たぶん同じだろう。
この場所もあの衝立みたいに射影機で写したところ、写り込んだのは、あの囲炉裏の間にあった置物のようなものだった。
そこに、この鏡台の引き出しを開ける鍵があるということだろうと思われる。
が。
戻るのは、心底面倒臭い。
と、いうわけで。
「斬られたくなければ、行ってこい」
しつこくまた涌いて出ていたおっさんに命令。
おっさん、情けない悲鳴を上げた。
「ひぃっ! で、でも、もうひとりきりは勘弁……」
「斬るぞ。微塵に」
「ひぃぃっ!」
いくら霊体でも、斬られたら痛いんだろうか。
まあ害虫のことなんざどうでもいいけどな。
怯えるおっさんに、深紅は溜息を吐き。
「この人、本気ですよ?」
「!!」
やれやれ、脅しすぎたか……。
部屋の隅に縮こまりがたがた震え出すおっさんに、憐憫の情など欠片もわかないが。
まあ、仕方ない。
おっさんに、少しばかりやる気を出してもらうとするか……。
俺のために。
「おっさん、行ってきてくれたら、一緒に連れて行ってやるよ」
「ほ、本当かっ! 行ってくる! 行ってくるよっ!」
態度一変。
嬉々と表情を明るくし、すぐさま部屋から飛び出して行ったおっさんをのんびりと見送る俺に、深紅の胡乱げな視線が向けられる。
「……本気、ですか?」
「冗談。鬱陶しいのは勘弁。鍵だけ貰ったら、撮ってやれ」
「……私ですか……」
溜息を吐く深紅だが、深紅だって、あんなの一緒に連れて行く気はないだろ。
利害の一致ってヤツだ。
とにかく、しばらくそのまま二人で待って……。
「か……鍵、持って来…っ!」
カシャン。
「えぇえーーっ!?」
叫びながら消えてくおっさんに合掌……も、しないが。
とりあえず、その場に落ちた鍵を拾って、いざ鏡台に。
中から出てきたのは……。
「また鍵ですか……」
溜息を吐く深紅。
やれやれ、何か奥に誘われてる気がしてならねえな……。
「ん? あと、コレは……さっきのおっさんか……」
何でおっさんの写真がこんなところに……。
「……弥生、これって……」
「……縄……か」
写真に写るおっさんの首と四肢には、しっかりと縄が巻きつけられていて……。
「……ま、おっさんの写真なんざ、どうでもいいか。先行こうぜ、深紅」
「そうですね」
さ、次行くか、次。
どうせもう、おっさんは出てこねぇだろうし。
と、いうことで。
さっさと進むことに決めた、俺と深紅だった。
第五夜・了
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