かぼちゃ!見渡す限りのかぼちゃ!生のかぼちゃ、煮たかぼちゃ、かぼちゃパイ、…その他もろもろ並ぶかぼちゃ。オレンジ色のそのかぼちゃを眺めながらゴクリと唾を飲み込む。いつの間にかあたしはスプーンを握っていた。これは、これは食べていいってことかな!うん、きっとそうだよね、なんてあたしは自問自答しながらまずは煮たかぼちゃにスプーンをいれて、


「いただきまーす」


とか言って、口のなかにいれて。いれて、いれて…。ううんいれようとして、あれ、それで…それで…



「お、起きた?」

「へ…」


ゆらり、瞼の裏に染み付いたその影が目を開けた直後も揺れている。丸い、大好きなかぼちゃの影。そこにあったのはかぼちゃじゃなかったんだけど、あたしはそれに気づくことなく、手を伸ばした。


「かぼちゃ!」

「うわ、違うし!私かぼちゃじゃない!」


かぼちゃ…じゃない。段々と視界が鮮明になって、目の前にいる彼女の輪郭がはっきりしてくる。彼女…猫柳(ねこやなぎ)は伸ばしたあたしの手を掴んで言う。

「まだ寝ぼけてんのか?」


呆れたようなからかってるような、変な感じのする声。


「んー…」


さっきの問いには答えずに、目を擦って曖昧にごまかす。自分が寝ぼけてるか寝ぼけてないかなんて、案外自分ではわからないものだもんね。
それにしても、さっきのはやっぱり夢なんだ。たくさんのかぼちゃに囲まれて過ごすなんて、とても幸せな夢だったな。正夢になったり…しないよね。


「なんか幸せそーだったぞ」

「うん!すごい幸せな夢みた」

「どーせかぼちゃか王子関連なんだろ?」


あたしの眠気が移ったのか、今度は猫柳があくびをした。図星です、なんて言えずにえへへーと笑っておく。
体を起こして枕元に置いてあったかぼちゃの髪飾りを頭に乗っけた。そしてそのままベッドから足を投げ出して座る。


「あ、そういえば」

「うん?」

「さっき王子が来てたよ」


王子?王子。でてきた名前に思わず固まる。金色の髪をしたあたしの婚約者の王子様。え、え。それっていつ。どこに。あたしが寝てる時に。あの王子が!?


「えええええ!!?」

「わあっ!ったくうっさいなー」

「うそ!いつ?あたしが寝てる時?なんで?てかなんで起こしてくれなかったのおお!」


片耳に左手の人差し指を突っ込んで「うるさい」と耳を塞いでいた猫柳の肩を揺さぶり責め立てる。なんで!せっかく王子が来てくれてたのに!涙目で訴えるあたしに猫柳は「落ち着け、とりあえず落ち着け」と宥めるように声をかけた。そして私のさっきの質問に順々に答えていく。


「本当。ついさっき。お前が寝てる時に。用件は聞く前に帰っちゃったから知らない。幸せそうにいびきかきながら寝てたから起こすに起こせなかった」

「いびきなんかかいてないもん!」

「いや、かいてた」

「かいてない!」

「かいてたね」

「かいてない!怒るよ!」

「お前がどんだけ怒ってもちっちゃいから迫力ないなー」

「ちっちゃくないもん!」


不毛ないつも通りのやり取りを繰り返した後、こうしてはいられないとあたしは立ち上がった。「ついさっき」に王子は来たんだ。だからまだ近くにいるかもしれない。中にいる猫柳に「王子探してくるね!」と叫んであたしは部屋から飛び出した。そんなあたしの背に、お腹の底から吐き出したみたいな猫柳のため息がぶつかった。






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