あめあめ、ふれふれ
100307 00:39


「雨だなぁ…鬱決定」
「兵助が鬱か…よっしゃ、俺は元気決定」
「うわ、勘ちゃんひどいなぁ」
「あははは、冗談だよ兵助」






「もっと降れ〜」


そう歌いながら勘右は真っ黒な傘をくるくると回す。勘右は物事にあまり頓着をしないので、傘はずっと中学から一緒だ。物持ちがいいとも言うが、単にセコいとも言う。勘右は父親が医者で、その父の言うままに医学部に進学した。他にやりたいこともないし、と言いつつも、あっさりと医学部に現役合格するんだからすごい。所謂ボンボンな勘右だが、全く飾らないし気取らないから、兵助たちともずっと友達なのだ。


「雨の日ってさ〜」
「どうしたんだよ」
「空が泣いてるんだよな〜」
「…はい?」

勘右の的を得ない発言は今に始まったことではないが…理論的に考える兵助にはやはりすぐには対応できない。


「天下の医学生が何言ってんだか。雨は積乱雲が…」
「そんなこと分かってるさ。夢がないなぁ兵助は」
「…うるさいなぁ。でもなんで急にそんなこと言い出したんだよ」
「ん〜なんとなく」
「…ああ、そう」


やっぱり的を得ない。でも兵助も自覚はないが電波なところはあるので、勘右とは何だかんだ言って合うし、気を遣わないのであった。


「人間てさ、泣くの我慢したりするじゃん?」
「まあ、そうだな」
「だから、この地区の我慢されてる涙をさ、この地区の空が代わりに雨として降らせてくれてるんだよ、きっと」


勘右が真顔でそんなことを言うものだから、兵助は思わず吹き出していた。


「…ぷっ、なんだよソレ。地域限定かよ」
「わ、笑うなよ!たぶんそうだって!」


でも勘右が言うと、なんだか説得力があるような気がしてならない。きっと竹谷なら二つ返事で同意するんだろう。


「…勘右、」
「なんだよ」
「雨、もっと降るといいな。この地区の人間がもっと笑えるように」
「…なんか兵助、らしくないしキモイ」
「…おま…ほんとサイテーな…」
「あはは、サイテーで結構結構。…兵助、」
「なんだよ」
「元気になった?」


笑顔全開で勘右が兵助に言った。兵助は思いもよらぬ発言にキョトンとする。


「…ああ」
「良かった〜」


やはり読めない男だなぁ、と兵助は思うのであった。





* * *



「じゃあ、あの話って、俺を元気付けるためのつくり話?」
「はい?んなわけないだろ。本気の本気」
「…なんだ」
「あれ?兵助って自意識過剰?」
「おま…ほんとサイテーな…」


まえ つぎ



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