今泉がヘンだ。いつものスカしてる今泉じゃない。どのくらいヘンかというと、あの鳴子がドン引きするくらい。相当キテルのだ。

「なあ、したい」
「お断り」

昼休み頃からずっと、どこからか私を見つけては後ろを追ってくる。
どうやらこの男、先週事を致したのが大層お気に召したらしい。お互い初めてのことだったので四苦八苦だったが、まあ成功したと言っていいだろう。私もそれなりにきもちよかったし、何より顔の良さ故に引く手あまたの今泉を、私のものにできた気がして嬉しかった。今泉が私を求めてくれるのが嬉しかった。

「どうしてダメなんだ」

今泉はついに怒りだす。ダメだこのぼっちゃんは。自分の思い通りにならないとぷりぷり怒る。
どうやら彼も行為を楽しんでくれたようだ。が、楽しみすぎたようだ。美形ゆえに神聖なイメージがつき、性欲無さそうなどと噂されるこのエリート様は、蓋を開けてみればとんでもない絶倫だ。いや、比べる対象がいないので断言はできないが。

「白昼堂々したいとか言ってくるひととしたくない」
「人が居るところでは言ってないだろう」
「でも鳴子に聞かれた」
「あいつはいいんだ。置物と同じ」

そして暴君理論で私を困らせる。まあ、言い方はアレだけれど彼なりに鳴子を信用しているという意味だろう。
思わず今泉の顔をじっとみる。なるほど綺麗だ。整っている。すらりと背が高くて、細身で筋肉質。好み云々は抜きにして、十人中十人がイケメンと言うだろう見た目。それに加えてスポーツで全国レベルの実力者、クールでストイック。女なら誰もがこんな男捕まえてみたいと思う物件だ。

「…なあ、」

でも、一枚皮をめくればそこには小さな子どものような男がいるだけだ。ずっとひとりで先頭を走ってきたから、人となれ合う方法をよく知らない。先頭を走っていれば皆文句を言わなかったから、お願いの仕方もわからない。私の目をじっと見つめるこの男は、大きな器に入った子どもだ。
私みたいな酔狂な女には、そんな今泉が一番愛おしい。完璧超人よりも、子どもみたいな今泉が好きだ。私も彼に甘いから、きっと今回のお願いも聞いてしまうだろう。そうでなくても、この先ずっとセックスできないなんて嫌だ。

「お前を知りたいんだ。もっと深くまで」

伏せられた瞳にまつげが影をおとす。ひそめられた声は他の誰にも届かないように耳元で発せられ、私を震わせた。
子どもだからこそタチが悪い。自分の破壊力を知らないのだから。
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