「二年参り行かない、もう年跨いでるけど」

一松くんは、転がったビール瓶を拾い集める私に向かってそう言った。

特に実家に帰る必要もなかった私は、ほぼ嫁ということで松野家の年越しに呼んで頂いた。それは嬉しいことだったけど、内輪ノリで羽目を外した行為の連続にヘトヘトになってしまった。これじゃあこの家に嫁に来る人は大変だ。松代さんが笑ってビール瓶を受け取ってくれたので、外の空気が吸いたくて頷いた。

「あ、ちょっとだけ雪積もってるね」
「滑らないようにね」

そういって自然に私の手を攫う。こんなことができるようになったのは、一体いつ頃からだっただろうか。いつも変わらず一松くんの掌は熱を持って暖かい。
新年最初の空は星ひとつなく、街灯と朧月だけが私と一松くんを黄色く照らしていた。
大して遠くもない場所にある小さな神社。タイミングの問題なのか、お参りに来ている人はいなかった。夜の神社なんて、元旦以外なら怖くて近づきたくない。だけど今日だけは、何故だか私たちを守ってくれそうな、神聖な雰囲気が勝っていた。

「小銭持ってる?」
「あ、持ってないや」
「じゃあこれ、」

一松くんが繋いでいた反対の手で握りしめて暖かくなった10円玉を渡される。

「こういうのって5円玉じゃないの?」
「もういらないでしょ、新しい縁なんて」

それもそうか、なんて頷いて、賽銭箱に10円玉を投げ入れる。手を合わせてお願いをした。
時間にして20分ほどの散歩だったけど、新年最初の小さな幸福だった。

松野家に戻ると、松代さんはまだ後片付けをしていた。一松くんの兄弟はその邪魔をしたり、畳の上で寝こけたりと、思い思いに過ごしている。一松くんは私が寝る場所の確保をしてくれると言うので、私は松代さんの手伝いをすることにした。まだ食べると言ってさっきから箸を持ってすらいないカラ松さんの唐揚げにラップをかけたり、トド松さんが抱いて眠っている瓶を抜きとったりと、することは絶えない。
そういえば、さっき一松くんは神様になんてお願いしたんだろう。
賑やかな松野家での時間に、ぽっかり空いた穴のようなひと時だった。そういえば、他の兄弟に話しかけられっぱなしで、二人で話すのも久しぶりだった。一松くんはそれをわかって二年参りに誘ってくれたんだろうか。帰ってきてからその事に気づいてしまった私は、やたらと話しかけてくるチョロ松さんの周りに転がる瓶を拾いながら思わずにやけた。一松くんに後でなんて言おうかな。今年もきっと、良い一年になるだろう。
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