おそ松は目ざとい。長男として弟達を支えるべく培われてきた力なのか、人間の心の機微にやたらと敏かった。だから私は自分の心が不安定な自覚がある時、積極的におそ松を避けている。だけどおそ松はそれすら見越したように、私を見つけだすのだった。今もそう、いつもはたまにしか来ない癖に、一体どうしてかこういう時に限って訪ねてくる。インターホン越しにおそ松が現れた瞬間、その顔を見て私は逃げ出したくてたまらなくなる。居留守を使おうか、いや、もうバレてる。観念して扉を開くと、まったくいつも通りのおそ松が「よ、」と片手をあげた。
荒んだ心に、おそ松の楽観的な笑い方は刃物のようなものだった。わかってる、でも信じられない。おそ松はきっとどんな私も受け入れるだろう。意味もなく甘やかすのはやめてほしい。
それを言うこともできず、顔を見ることすらできず、ただただおそ松の足元を睨みつける。

「今は、ちょっと、余裕ないから帰って」
「まーた意地はっちゃって」
「おそ松には関係ない。自分で元気になるから、ほっといて」
「お前が大事だから、ほっとけないのー。わかれよそんくらい」
「そういうの、今はいいから、ほんと」
「でも今、泣きたいんだろ?」

人前で泣くのだけは絶対に嫌だ。泣きたくないと思えば思うほど、顔は醜く引き攣るし、汚い嗚咽が漏れる。なんでこんなにどうしようもないんだろうって思いや、答えのない疑問で頭が一杯になる。どうして私はこんなに醜いんだ。
嫌で仕方ない。おそ松にこんな自分を見られたくない。涙腺が決壊するまえに踵を返す。だけどおそ松がそれを良しとするはずがなく、すぐに後ろから捕まえられた。まるで抱きしめるかのように上から私を包むものだから、心音まで筒抜けのような気がした。自分の顔が歪むのがわかる。なんでこんなこと、なんで。

「お前、やなことあるとその原因を考えるだろ。そんなのしなくていいんだよ、悲しかったら、ああ今悲しいなあって泣けばいいだけなんだよ。わざわざ自分の痛いところほじくりかえさなくていいの。ほら、やってみ」

震えるまぶたを閉じて、静かに息を吐いて、吸う。悲しいのも、涙がでるのも悪いことじゃない。悲しかったら泣けばいい。ただその事実だけ、静かに受け入れればいい。そう思うと顔がひきつることもなく、ただ涙が頬を滑って落ちていった。
自分が綺麗に泣けるという事実にびっくりした。自然と私を捕まえていたおそ松に身体を預ける。私はいつでも逃げられなくて、なまぬるい居心地の良さに浸かってしまうのだ。

「な」
「…うん」
「お前はちゃんと自分が今疲れててどれくらいやばいかってわかんだから、しんどくなったらちゃんと俺んとここいよ。何が嫌とかどうしたいとか言わなくていいから。泣く手伝い位いつでもしてやるよ」

確かに、一人でグズグズと悲しみを不完全燃焼させるより、おそ松に溶かしてもらった方よっぽどいい。これからは、少しは甘え上手になろうと思った。
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