私に縋り付くようにして泣くカラ松になんて声をかければいいのかわからなくて、私はカラ松の背中をさすりながら鼻を啜った。少なくともカラ松はいまここにいるし、私を必要としてくれている。
カラ松に笑って欲しい。好きと言われたことがこんなにも嬉しい。そっと背中に腕を回して抱きしめ返すと、カラ松の体はびくりと揺れた。

「私も好き」
「…っ、」

可能な限り優しい声で言う。力を抜いてカラ松に身を預けるようにすると、カラ松の心臓の音が聞こえてきた。強く早く脈打つそれは、今のカラ松の表情を容易く想像させた。震える喉でもう一度「好きだ…」と吐きだしたカラ松は、続けて「このまま抱きしめていたいし、キスもしたい…どうすれば…」と呟いた。私は溢れそうになる笑いをかみ砕きながら「ひとつずつね」と答えた。気づけは涙はひっこんでいた。

「次は優しくする」

そう宣言したカラ松は、武骨な指で私の顎をさらった。きざな動作で触れた唇は、なるほど優しい。かすかに震えた柔らかい感触はすぐに離れ、そしてぎゅっと抱きしめられた。頬を撫でるととても熱い。すり、と頬を寄せられた動作は官能的だったが、体は子どものようにしがみついて離れようとしない。
こうなってくると、私には少し余裕ができた。カラ松の胸を弱く押すと、ほんの少しだけ隙間ができた。顎を引いてこっちを見ている赤い顔のカラ松に今度はこっちからキスをする。

「もっと」
「カラ松?」

外の温度の手が素肌に触れて、思わず息を飲む。脇腹と背中の間あたりをカラ松の手がなぞるようにすべるので思わず腰が引ける。だけどカラ松のもう反対の手で腰を抑えられているので身じろきにもならなかった。

「あの、カラ松」
「っはあ、」
「買い物行きたいんだけど」
「…今言うか?それ」

ふは、と息をこぼす様な笑いを漏らして、カラ松は「ごめんな」と捲った服を戻し、やっと離れた。

「それなら俺もついて行こう。一宿一飯の恩義だ。荷物持ちくらいにはなるだろ?」

パーカーに隠された太い二の腕を掴んで笑うカラ松が傍にいると、私はこんなに幸せになれる。カラ松が傍にいると、日差しの心地よい日曜日のような気分になる。大きい窓から天日干しされた風が入ってきて、白いシーツが干してある。その日私は何をしても良くて、何もしなくてもいい。のびのびと自由に私でいられる。

「うちで使うカラ松のパジャマと、歯ブラシと、マグカップを買おう。あとなんかあったっけ?それに今日夕飯も食べてってよ、何食べたい?」

カラ松はあっけにとられたような顔で私を見ていた。3秒だけ情けない顔をして、持ち直せなくて、かっこよくない方のカラ松の顔になった。目元が赤いのは見ないふり。きっと今のカラ松には温かみが足りていないのだ。ならば私が私にできるめいいっぱい、それをカラ松に与えよう。持ちうる限りの優しさと包容力で、カラ松を包みこんで幸せにしたい。
なんと言っても、今日から彼女なのだから。

「……梨」
「梨?デザートだね」
「唐揚げ」
「ああ、いいね」
「お前がつくったの」
「はいはい」
「…お前の前だと、恰好がつかない」

私はとうとうぶふっと吹き出した。
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