「おはよう、カラ松」
「ん…ああ、おは、よ、う」

カラ松は私のベッドから凄い勢いで起き上がって、自分の体と私を交互に見た。そして頭を抱えて蹲ってしまった。はたして二日酔いだろうか。

「お、俺は…」
「大丈夫、潰れて寝てただけだよ。はい水」

昨夜は自ら進んで成人男性を自宅に連れ込むという暴挙に出た私だったが、流石に襲うとか誘うとかなどの行動を起こす勇気はなく、ただベッドを明け渡し眠りについた。現在は心地のよい日差しが差す午前9時。カラ松は私の部屋に座り、落ち着きなさそうにもじもじとしている。そういえば家に連れてくるのは初めてだった。
カラ松の為にインスタントのシジミの味噌汁を作りながら、カラ松がああでもないこうでもないと逡巡するのを眺めた。なんとなく愛おしい。だが味噌汁が完成するまでカラ松は悩んだままだったので、眺めるのはやめにして飲みなよとカラ松に味噌汁を差し出した。テーブルに置かれた味噌汁を見て「ありがとう」と言ったカラ松は、そのままそのごつい手で私の手首をつかんだ。どきりとしてカラ松を見ると、きりりとした眉でこちらを見つめ、口を開く。

「だめだぞ、酔いつぶれた男を家に連れて帰ったりしたら」

いや、私はわかっていたはずだ。カラ松という男はこういうやつだと。
あっさりと私の手を離したカラ松は丁寧に手を合わせ「いただきます」と言ってから味噌汁に手を付けた。

「カラ松だからだよ」
「何がだ?」
「連れて帰ったの」

カラ松はむせた後、怒ったような照れたような顔をして「そういうこと言うんじゃない」と言った「なんで?」「思いあがるだろ」「いいじゃん別に」のらりくらりとカラ松の言葉を交わすのがなんだか楽しくて思わず笑う。

「カラ松お父さんみたいだよ」
「そりゃあ、心配になるだろ。まさか誰にでもこんなこと言ってるのか?」
「だーかーら」

カラ松だけだってば。いい加減気づいたら?
私がそういうと、とどめになったようでとうとうカラ松はむっつりと押し黙った。私は飲み終わった味噌汁の椀を下げようとカラ松に近寄る。椀に手を伸ばすと、また腕を掴まれた。「もーなに?」カラ松の顔を見てドキッとした。さっきと目が違う。

「今の本気か?」
「うん、ほんき」
「じゃあ、キスしていいか?」

思わず息が止まった。ちょっとからかいすぎちゃった。
そう思いつつも、カラ松の目を逸らすことができない。吸い込まれるような瞳を見ていると、思考すら吸い取られてしまうようだった。感情を読み取ることもできない。怒ってるのか、真面目な顔なのか、わからない。軋む関節をなんとか動かして首を縦に振ると、カラ松も目を見張った。そのまま緩慢な動作で私の前髪を撫であげ、おでこに唇で触れた。

「………」
「……お椀、さげるね」
「ああ」

顔は見れなかった。逃げるように椀を取って台所へ向かう一瞬、真っ赤になった首が見えた。頭が沸騰しそう、とはこういうことを言うのか。寸止めをされたような、不完全燃焼のような気分だ。この熱量をどこに吐きだせばいいのかわからない。そんな恨みを籠めて、ギリギリ聞こえないくらいのつもりの声で「へたれ」と呟いた。その時。
ガタッと椅子が動く音がした。ドスドスという性急な足音がした。肩を熱い手が掴み、振り向かされた。真っ赤な顔をしたカラ松に、そのまま唇をふさがれた…。

「あっ」
「俺は、俺はな、お前が好きだ…」
「カラ松」
「我慢したんだ。俺はお前に釣り合わない。でも、お前が、そんなことを言うから…」

逃がさないと言わんばかりに力いっぱい抱きしめられた。一瞬だけ見えたカラ松の顔はとても苦しそうだった。熱い。痛い。熱い。熱い。カラ松の息を殺すような声が聞こえる。もしかして、泣いてる?私を求めるように這う手はどんどん力を増した。一体カラ松に何があったと言うんだろう。昨日、落ち込んでたこと?わからない。わからないけど、カラ松が悲しんでると思うとどうしようもなく、訳の分からない涙があふれて、こぼれる前にカラ松のパーカーに染み込ませるように縋り付いた。
椀がカランと乾いた音を立てて床に転がった。
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